「心に残る映画」シン・エヴァンゲリオン劇場版 juさんの映画レビュー(感想・評価)
心に残る映画
前回までのストーリーや設定をかなり忘れていたので所々理解出来ない箇所もあったが、丁寧かつ温かいタッチで物語が展開されており、満足した。終劇として終わり方が良く、作者なりの総括も視聴者の満足のいくものになりそうな気がした。そして、その感覚が作者と共有されていて温かい気持ちになれた。そのせいか、驚くような展開は少なかったが、皆が共有できるハッピーエンドにするというのがエヴァ史上最大の難問であり最も求めている事でもあった。これが達成されただけでも観た甲斐があった。
映画で特に印象に残ったのは碇ゲンドウというキャラクターの存在についてだ。彼を通じて完璧な存在は否定される。自らの弱みに向かい合わず、知恵や戦略によって弱さを克服しようとしても弱さは決して浄化されない。それどころか、自分の弱さを認められない弱さにより、完璧で永遠なる存在を渇望し始める。しかし、その願いも結局叶わない。不可能を可能にしようとする事は否定される。現実と同じだ。彼が自分の弱さを認めた瞬間、渇望は消えて、物語は逆転し始める。弱い事実はなくならないが、弱さを認め回避を止める事で、彼の精神を蝕むものはなくなり、弱さは浄化されるのだ。
彼の行動は精神医学的には神経症の表れだと思うが、現実世界を観ても、このような病(もはや病ではなく現代的気質と呼ぶに相応しい気がするが)に侵されている人は非常に多い。彼の気質には現代の精神的傾向が如実に反映されている。そして、彼のとった行動はまさに神経療法的側面からしてみても病を克服する上で正しいものだ。しかし、やはりこのような乗り越え方は感動を伴うものだと感じた。
主人公達が大人になったラストシーンも同じように乗り越えた結果なのだろう。素晴らしい表現シーンだ。
まずは、この映画が放つメッセージを大切にしていきたいと感じた。