「アウンサン将軍の娘であること。」The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
アウンサン将軍の娘であること。
まずL・ベッソンが監督だということに驚き、
M・ヨーが入魂の役作りで完璧に演じていることに驚く。
実在の活動家、Aスーチーの壮絶な半生を描いたこの
ドラマは、ただ彼女の於かれていた現実を見るだけでも
価値ある物語なのに、実に分かり易く内面まで掘り下げ
重厚かつ本人に肉薄したドラマに仕上がっている。
恐るべし、ベッソン!こんな作品を撮りあげるとは…。
スーチーさんといえば、まずニュースで常に取り沙汰される
自宅軟禁の報道。15年という長きにわたり、軍事政権からの
横暴な圧力に非暴力で立ち向かい、いまなお現在進行形で
彼女は民主化に向け闘い続けている。そんな彼女の報道で
映される姿とは別に、今作は夫や息子との愛情秘話を描く。
英国留学ののちチベット研究家の夫と結婚、2児の母となり
幸せな生活を送っていたが、倒れた母の看病のために帰国した
ビルマで事態は急変。アウンサン将軍の娘帰国に民衆は熱狂、
民主化のリーダーとして彼女に一縷の望みを託すのだったが…。
スーチーさんの(父親から継いだ)偉大さもさることながら、
夫唱婦随で常に心で寄り添った夫・マイケルの存在が大きい。
この人を妻にすれば、いずれはこんな問題に直面する予感は
あったんじゃないだろうか。しかしこんなに長く夫婦が引き離され、
自分の死に目にすら逢えないとは、思いも依らなかっただろう。
長年にわたる自宅軟禁の中で、家族は何度かビルマを訪れる。
彼女がしていることは民主化を望む国民の為、それは家族も
承知とはいえ、いきなり普通の母親から民主化のリーダーとして
国外にも出られなくなってしまったのだ。夫がガンになり、
すぐにでも看病に戻りたい彼女に、来るな。君は国を出るな。と
必死に説得する夫の姿には涙が溢れた。これほど愛し合っている
夫婦が何の因果でこんな目に遭わなければならないのか…と思う
一方で、折れない強さを妻同様に夫も持っていることに感動する。
スーチーさんは、そんな家族や国民に支えられて、今あるのだ。
ひきかえ、旧軍事政権のバカさ加減にはまったく呆れ返る。
あんなバカ将軍が、よく国を治めるなんざできたものだ。
くだらない予言に頼り、運動家たちを惨殺し、彼女に圧力をかけ、
自分で自分の首を絞めているとしか思えない愚行に腹が立った。
父親であるアウンサン将軍は、いまの娘の勇姿をどう見ただろう。
多くを奪われ、大切な人をも失った彼女が、何としてでも手に
入れようとしているのは彼が掲げた目標であることを、父親は
誇りに思っているに違いない。The Ladyとは、名前で呼ぶことを
禁じられていた国民が、彼女を呼ぶときの敬称だったそうだ。
(着実に民主化に向け歩んでいるのが救い。スーチーさん頑張れ!)