劇場公開日 2012年9月7日

踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望 : インタビュー

2012年9月5日更新
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映画では、警察が押収した拳銃を使った連続殺人事件が発生する。捜査の過程で、青島はある嫌疑をかけられるだけでなく、辞職勧告がくだされ警察手帳を奪われてしまう。さらに、室井(柳葉敏郎)までもが組織の大きなうねりにのみ込まれ、職を解かれようとしていた。そんな状況下でも、ふたりは仲間たちと懸命に捜査を続けるが、それをあざ笑うかのごとく真下(ユースケ・サンタマリア)の息子が誘拐されてしまう。

ドラマシリーズからのファンはもちろん、“踊る初心者”も堪能することができる展開が用意されている。青島が伝えたいメッセージは終始一貫しており、決してブレることはない。連ドラ最終回で、青島は練馬警察署地域課へ降格処分となり、桜交番に勤務している。「100円玉を拾った少年が届けに来るわけですが、その子に自分の財布から100円を出して、『正しいことをするといいことがある』と書いた紙とともに渡すんです。超法規的措置だとか、訳の分からないことを言うんですが(笑)、この言葉に集約されているというか、これが青島の基本なんじゃないですかね」。

青島は15年間にわたり、正しいことをするためだけに、とにかく奔走する。出世欲はまるでなく、常に市民の安全を最優先に考え、どのような局面に立たされても自らの信念を曲げることはない。であるのにもかかわらず、警視庁一の問題児といわれてしまう。なぜなのか? それは、警察官になったときの初心を忘れてしまっている警察官が、あまりにも多いからにほかならない。

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メガホンをとった本広克行監督は、クライマックスのシーンに脚本にはなかった青島のスピーチを付け加えた。織田は、「そのスピーチによって『踊る』が言いたかったこと、青島のメッセージというのは、より分かりやすくなったかなと思います。15年経って、ファイナルでようやく青島と室井、和久さんたちがやりたかったことがスタートするんですから。単にスタートしただけなので問題はいっぱい出てくるでしょうが、新たな希望がちょっと見えてきたことは確か」と語る。

織田にとって、今年は「湘南爆走族」で銀幕デビューを飾ってから25周年。映画出演は20本を数え、うち主演作は「踊る」シリーズ4本を含め15本にのぼる。07年には、黒澤明監督と三船敏郎の黄金コンビによる傑作時代劇をリメイクした「椿三十郎」に主演した。メガホンをとった森田芳光監督は、昨年12月20日に急性肝不全により61歳の若さで死去。森田監督は他界する数年前、筆者に「織田裕二は現代の日本映画界で唯一、名前だけで客が呼べる映画スターだ。機会があればもう1度、やりたいねえ」と明かしたことがある。

「やりたかったですねえ……。本当にやりたかった。森田監督が書かれるオリジナルでやりたかった。何しろ面白かったですから。あの作品をやったおかげで、雑草は雑草で(笑)、作品を生み出していかなきゃならないんじゃないかと改めて思いましたから。黒澤監督の素晴らしさ、先人たちの素晴らしさも、あの作品をやったおかげで分かりましたしね。オリジナルっていうものの重要性も感じました」

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常にファンが楽しんでくれることに重きを置いてきた織田だけに、報じる側も「次は何をやるんだろう」と、その動向から目を離すことができない。「踊る」シリーズを“部活”にたとえ、「ひとつの部活が終わったような感覚があるんです。卒業なのか廃部なのかわからないけど、今度は社会人になって会社に新たな部活を立ち上げるのか、プロにスカウトされるのか……。なんか、そんな心境なんですよね」と清々しい眼差(まなざ)しを向けてくる。そして、「人生として考えればまだまだ半分。今からでも、すぐに次の作品へいきたいんですよ。そのひとつひとつを『踊る』以上のものにしたいと思っています。現実的に考えれば、こんな風にうまくいく機会ってそう簡単でないことも分かっています。ただ、やるからには絶対に『踊る』を超えてやるんだ! という思いでいますよ」と真摯な口調で打ち明けてくれた。

織田が銀幕デビューを果たしたころ、それは洋画全盛期で日本映画界は斜陽の時代。「見たいと思える日本映画があまりにも少なかった」と述懐する織田にとっても、忸怩(じくじ)たる思いがあった。だからこそ、「日本映画界っていうのは僕が生まれた源流というか、故郷のような場所。枯れないでほしいし、伝統芸能のようにはなってほしくない。ただ、あぐらをかいていちゃいけない。時代の変化は技術の進歩とともに、敏感にアンテナをはっておくべきだし、少なくとも現実より半歩くらい先を行っていてほしいですよね。現実のほうが洒落ているんじゃ、情けないじゃないですか」と語る姿からは、日本映画に対するありったけの愛情が伝わってきた。

「才能のある人と、どんどんやりたいんですよね」と満面の笑みを浮かべながら話す織田が、青島俊作の次に選ぶのは、どのような役どころなのか。「踊る大捜査線」は興行記録を塗り替えもしたが、多くのファンから愛されていたこともまた事実。やはり、織田裕二という俳優は、問答無用で映画界の王道を突っ走る姿が、誰よりも似合う。

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