踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望 : インタビュー
引き金は東京湾岸警察署の開署
そんな折、警視庁から総務を通じて連絡があった。江東区青海に開署する新たな警察署(前身は東京水上警察所)の名前を「東京湾岸署でいきたい」と打診があり、「僕らは映画を終わらせるつもりはないので、湾岸署という名称が使えなくなったら困る」と返した。深い深い“迷いの森”をさまよっていた「踊る」シリーズに、大きな刺激を与えたのは、劇中の舞台である警視庁だった。
「湾岸署がリアルな世界に本当に出来ちゃうのか。ひょっとしたら、リアルとオレたち『踊る』の話の世界というものを、ファンが違和感なく受け入れてくれた。それがもたらした173億だったのかなと思うようになったんです。そう思ったとき、だったら……、期待していくれている人がいるんだとしたら、やらなきゃいけないですよね。で、織田君に話をしてみたら、同じことを思ってくれていたみたいなんですよ。そこからまじめに考え始めました」
2008年3月31日の東京湾岸警察署開署式では、織田が青島俊作名義で祝電を寄せた。そして、これと連動する形で「踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」の製作決定を発表。きっかけを与えてくれたこともあり、7年ぶりに復活する「踊る」の冒頭は、新湾岸署への引っ越しから始まることになる。また、脚本の君塚、メガホンをとる本広監督らとも計画性をもったプランを綿密に打ち合わせていった。
「以前のようなものはもうないかもしれないし、いかりやさんがいないということも大きい。新・踊る大捜査線という気持ちでやろうと。3の後にすぐ4を作る。その前にドラマへも戻りたい。それで終わりっていうのが最も美しい。この座組みで2時間の分量を3本作ることは大変なことなので、腹をくくってやろうと言った覚えがあるんですが、いまだに誰も聞いてないって言うんですよ(笑)。スケジュールを再来年のこの時期まで押さえてくれていたのは、僕が言ったからだよね? と言っても『4とは言ったかもしれないけど、ファイナルとは言っていない』と(笑)」
7年ぶりの新作で生じた反省材料
新作製作まで7年の月日を要したことで、製作サイドが今だからこそ明かす反省材料もいくつかある。「余分なことを考えたことは事実。本来、『踊る』は『踊る』でシンプルに考えれば良かったのですが、いかりやさんがいない、織田君の年齢も上がってきている。役職などはリアルにやってきましたし、もっと言ってしまえば、警察官で所轄の刑事全員が10年間も同じ部署にいるなんてことは、まずない。でも、これだけ大きくなっちゃうと、おなじみの人がいないとね。やっぱり小さなことが気になり始める。だとすれば、そろそろ青島も後進を育てるようなポジションに入らないと。和久さんがやっていたある要素は青島、ある要素は室井が受け継がないとダメだろうということなったんです」
当初は、いかりやさんに代わる年配の俳優をキャスティングすることも考えたというが、「その方が違和感があるでしょう? だったら、和久君という次世代の男の子を入れて、青島の背中を見せるという方法論でラスト3本をやっていこうとなったんです」。こうして、いかりやさん演じた和久平八郎は病死したことになり、甥・和久伸次郎(伊藤淳史)という新キャラクターが登場する。和久の形見である「和久ノート」を肌身離さず持ち歩き、やる気に満ちあふれた新人刑事だ。また係長に昇進した青島は、出世直後に殺人事件・爆弾魔・バスジャック・強盗など、8つの難事件に直面する姿を描いた。
公開日は10年7月3日。全国447スクリーンで封切られ、公開週末2日間で興行収入約9億7200万円、観客動員約70万人を記録した。最終的な興収は73億1000万円で前作と比べるまでもないが、それでも近年稀に見る立派な数字である。10年度の興収邦画第3位という結果に亀山氏は、「僕らの意味づけとしては新しいシリーズが始まる第1話って考え方でしたが、単体として見ると欲求不満はいっぱい残っていたのかもしれません。それから、いろいろなことを一度に変えすぎた。作り方について僕らが拙速にものを考えすぎて、悩んだ末にそうなっちゃったんでしょうね」と振り返る。
ただし、今回の完結編に向けた布石という観点もふんだんに盛り込まれている。「もともとの計画がドラマを入れて3本という前提があるなかで、絶対に第1話(THE MOVIE3)で整理しておかなければいけない点もあったんです。そういう意味では、今回で『踊る』を終息させるためのことは、ちゃんとできたと思う。今回最も意識したのは、青島イズム。青島の根源って何だろう? それを継承していくことが一番大事だと思っています」