「セシル・ドゥ・フランスとリュディビーヌ・サニエ」ある秘密 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
セシル・ドゥ・フランスとリュディビーヌ・サニエ
フランスで暮らすユダヤ人たちの第二次大戦中から戦後が舞台の実体験に基づく小説を原作とする映画。「ドレフュス事件じゃあるまいし」と、たかをくくっていたが、フランス市民がユダヤ人との関わりを避け、排斥してゆくなかで、生活の場を奪われるまでに押し寄せるナチの影。身分証を組織的に偽造し、脱出を試みるユダヤ人たち。フランスからピレネー山脈を越えてスペインに脱出するのかな?そのへんは詳しく描かれていませんが、この映画のキモは戦後に生まれた少年の第六感を導入にして展開される両親の秘密を描いたもの。
観る前はナチのユダヤ人迫害に直面したユダヤ人同士の裏切りが秘密なのかなと思っておりました。
セシル・ドゥ・フランス扮するタニア(モデルで高飛び込みの選手)の健康的な美しさに自分の結婚式当日にもかかわらず魅了されてしまった同じく肉体自慢の体操選手のマキシム。
花嫁マリアはリュディビーヌ・サニエ。めちゃくちゃキュート。
笑顔が素敵だった彼女が次第に茫漠とした表情に変わってゆく様は痛々しいほど。単純に結論づけるのは難しいと思いますが、残さざるを得ない両親のことや営む理髪店の売却など彼女が後ろ髪を引かれる要因はいろいろあるものの、フランス人に偽造した身分証明書とユダヤ人の記載のある身分証明書の両方をナチスの憲兵に見せてしまい、息子シモンをかばうこともしなかったのは、ユダヤ人としてのプライドからではなく、夫マキシムが自分の実兄の妻タニアに気があるのを感じて、絶望と悲しみの中にあったからとやはり考えてしまいます。
そして、青年期以後はマチュー・アルマリック演じる生まれつき虚弱で運動が苦手で、父親の期待に応えられないフランソワが腹違いの運動神経抜群だった亡き兄を霊的に感じ、虚実の区別がつかなくなる場面やプールで高飛び込みをする母親の姿を見ることを強要される場面など、肉体的劣等感に打ちひしがれる少年を演じる美しい子役君も印象的。後年、ボケたマキシムが飼い犬を放してしまい、クルマに轢かれて死亡させてしまうエピソードは妻子を残して自分だけ先に出発したマキシムの身勝手ともとれる過去を重ねたのかもしれません。
セシル・ドゥ・フランスの圧倒的な肉体の美しさはまさに特権レベル。
マキシムの視線をそらさず見つめ返す自信に溢れた表情。繰り返される高飛び込みシーンも自信に溢れています。
たくましいマキシム(パトリック・ブリュエル)が疎開先で水浴するタニアを盗み見るシーンなどもなかなかエロい。
タニアの夫は収容所でペストで帰らぬ人に。マリアとシモンはアウシュビッツへ。
お互いの配偶者が帰らぬ人になった肉体派の二人に罪悪感が微塵も感じられないことに侮蔑と嫉妬を感じたのはエステルだけではないハズ。
私も心のなかで、「非国民~」と叫んでいました。