劇場公開日 2013年5月31日

  • 予告編を見る

「映像以上に、技や構え…カンフーの美しさに釘付け」グランド・マスター 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映像以上に、技や構え…カンフーの美しさに釘付け

2013年6月14日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

難しい

ウォン・カーウァイと言うと今やアジアのみならず世界的な支持を集める名匠だが、「ブエノスアイレス」「花様年華」などその作品はなかなかに馴染み易いものではない。そんなカーウァイが、イップ・マンを主人公にしたカンフー映画を撮ると言う。
中国拳法の一つ“詠春拳”の使い手で、ブルース・リーの師匠としても知られ、以前、ドニー・イェン主演による伝記映画も面白かった。
なので、興味惹かれない訳なく、またカーウァイ監督なのだから上質な作品になるだろうと思っていたら…カーウァイの映像美学が存分に発揮された全く新しいカンフー映画だった。

物語の始まりは、中国武術の統一を図る為、各流派の達人たちが技を競い合う。その頂上決戦は、まるで天下一武道会のよう。
しかしながら、作品で描かれるのは、ただのカンフー・アクションではない。
詠春拳のイップ・マンを軸とし、八卦拳のルオメイ、八極拳のカミソリ、形意拳のマーサン、各流派の達人たちのドラマと愛憎が入り乱れ、近代中国史と共に描いていく。
武術家としての宿命を受け入れ、時代に翻弄された彼らの生き様が哀しくも壮絶に胸を打つ。

それを際立たせているのが、二つの美しさだろう。

まず、映像美。
スローモーションによる滴り落ちる雨、舞う雪、光と陰と交錯し、その映像は陶酔感すら覚える。
映像派カーウァイの名に恥じず、今年のベスト映像派は「ライフ・オブ・パイ」といい勝負。

そして、映像以上に美しさを感じたのは、カンフー・アクションの美しさ。
無駄なくキレのある技の一つ一つ、構えも含め、興奮と感動。
カンフーをこんなにも美しいと思った事はない。
何年も厳しいトレーニングを積んだ俳優たちの努力の賜物。

カンフーはただ相手を倒す為だけの力技ではない。
一つ一つの技に意味がある。
思想と心も要求され、その心得は受け継がれていく。
何もカンフーの世界だけに留まるものではない在り方だ。

身・技・体を掌握して真のグランド・マスターと成りうるが、ストーリー・映像・アクションを掌握した本作はカンフー映画の真髄と言えるだろう。

近大