「炎上マーケティング!?『シャッターアイランド』並のピンぼけ宣伝」グランド・マスター メンチ勝之進さんの映画レビュー(感想・評価)
炎上マーケティング!?『シャッターアイランド』並のピンぼけ宣伝
トレイラーおよび公式ウェブサイトでは「誰が最強か」的な、いわば『ドラゴンボール』の天下一武道会っぽいアオりで売ってますが、ぜんぜんそういう映画ではありませんでした。
偶然出会った拳法使いの男女が後日の再開を約したものの戦争のため果たせず、戦後に偶然香港で再開するという、どちらかといえば『カサブランカ』や『君の名は』のようなメロドラマです。
宣伝のピンボケという点では、『シャッターアイランド』を思い出しました。あれは配給がパラマウントでしたが、その担当者がクビになってギャガに移り、またやらかしたのか・・・ということもないでしょうけど、そんなことを夢想するくらいにはバカ宣伝だと思います。
作品冒頭、おそらく日本で付け足したと思しき勢力図みたいなものがありましたが、これなども理解の邪魔でした。
シーン間のつながりや説明が弱い作品なので、心配して説明を付け足したのかもしれませんが、むしろ誤解を引き起こしかねないと思います。ソフト化する際は取り除くべきではないでしょうか。
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盛んに喧伝されているアクション部分は、一点を除けば実に見事です。
本作でフィーチャされているのは詠春拳・八卦掌・形意拳・八極拳と、いずれも実在の名高い武術ながら、シンプルで地味であり、映像にするには難物だと思いますが、ちゃんとそれらしく見えました。
武術指導の袁和平氏は伝統的武術に独創性を加味して現代的アクションを作り出すタイプだと思いますが、本作では奇矯さをおさえて渋く、しかし実践武術の凄みと迫力、そしてそれぞれの流派の様式を表現した、見事なアクションをデザインしたと思います。
ただ、見せ方がどうなのかと・・・これは王家衛監督の責任(あるいは趣味)だと思いますが、
・カット割りすぎ
・スロー多すぎ
・アップ多すぎ
・フォーカスぼかしすぎ
でした。
各種のインタビューを読むとそうとうな長回しで、役者さんは寒さと戦いながら苦労して撮影したらしいですが、出来上がった映像にその痕跡はありません。
要はみじん切りのアクションシーンで、「台無し」の一言に尽きます。
これをカッコいいと思う人がいてもいいとは思いますが、少なくとも私はノれません。
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その一方で、メロドラマ部分には捨てがたい魅力がありました。
話の展開が雑でシーンのつながりが弱いとか、重要そうなキャラクターが約一名ほとんど絡まないとかいう問題はあるにせよ、各シーンごとの映像の美しさと、役者の演技によって、シーン単体ではスクリーンの向こうとこっちで感情の共有がちゃんとできます。
小娘→女ざかり→中年を演じわけたチャン・ツィイーは実に見事でしたし、ダンディではあるがセクシーすぎない、朴念仁でもないし童貞こじらせでもない、ヒロインの好意に気づいてるんだか気づいてないんだか微妙な距離感を漂わせたトニー・レオンの「男としての正しさ」もまた、非常に好感の持てるたたずまいでした。
もちろん話がちゃんと繋がってるほうがいいとは思いますし、アクションがみじん切りでノれないという重大な欠点はあるんですが、ドラマとしてはちゃんと感情移入できて後ろ髪をひかれるような味わいも残るので、無碍に切り捨てる気にもならないという、妙なバランスの作品でした。
ちょっとだまされた感じもしますけど。