「モヤモヤ感がいい(追記あり)」桐島、部活やめるってよ 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
モヤモヤ感がいい(追記あり)
今公開中の『アナザー』が、いる生徒をいない人扱いするお話で、それとは真逆でいる生徒を最後まで登場させない話だったので驚いた。しかし、この映画は全ての登場人物が一面的でなく、桐島は実在しない可能性すら検討したくなる。
チャラけている連中も心に穴を抱えていたり、お互いがお互いを気にしていながら、それがずれている感覚が非常に上手に掬い取られていてとてもよかった。素晴らしい表現の見本市のようだった。
もっとじっくり映画秘宝を読んでくれてもいいのにと思った。橋本愛ちゃんは気まぐれに『鉄男』を見たわけではないと信じたい。この夏一番の青春映画なのは間違いないでしょう。
(追記)
初回で見た際は登場人物が多くていろいろな出来事や細かな描写を把握しきらなかったままレビューを描きました。二回目に見たら非常に細密に構成されていて、素晴らしい映画であることが改めて分かりより深く感動し80点から90点に変更しました。
神木くんがほぼオレであることを前提に話しますが、橋本愛ちゃんは女子グループや軽薄な連中との付き合いを大切にするあまり別に好きでもなんでもないチャラけた男子、しかもそいつは男子の中でもかなり下っ端男と付き合っていた。そんな橋本愛ちゃんが、適当に選んだ映画が『鉄男』であるわけがないんです。あんなハードコアな映画を適当に見るわけがないじゃないですか。オレ(神木)をイオンで見かけてつい、ストーキングをしてしまったんじゃないでしょうか。「こんな凄まじい映画が好きなんだ、やっぱり芯の通った男はかっこいい!」なんて思ったに違いないんです。映画の後のベンチ座る橋本愛ちゃんと、オレ(神木)が決してベンチに座らないその距離感!意気地のないオレ!!
桐島も相当苦しんでいたはずです。実際バレーボールに真剣に取り組みながらも軽い連中に気をつかって「別に遊びだし~」みたいな態度を取っていた事でしょう。誰に対しても何に対してもきちんと向き合うとダサいと言われそう、なんてそりゃあ何もかも嫌になっても仕方がないでしょう。彼女はまるで飯島愛みたいな超威張っている偉そうな女で、あんなの別に好きでもなんでもなくゴリゴリに押されて人が好くて断れず嫌々付き合っているだけに違いない。本当は橋本愛ちゃんの方がずっと可愛くて好きだったかもしれない。実態なんか何もないのに、チャラけて余裕ぶっこいている態度そのものが有利な立場の要素になっているその虚しさに耐えられなかったとオレは想像します。実際にバレーボールという実質があるだけに、チャラい連中の薄っぺらぶりにムカついていたことでしょう。
そしてみんなには羨ましがられ、県選抜なんかになったらバレー部でも僻む連中もいることでしょう。「そんなにオレはいい思いなんかしてねえよ!彼女、飯島愛だぜ!」と思っていたんじゃないかな。そんな彼の気持ちに思いを馳せる人なんか一人もおらず、非常に孤独だったと思います。本当に気の毒だし、桐島は絶対にナイスガイですよ。
そんな劇中さっぱり登場しない中心人物にまでつい思いを馳せてしまうほど素晴らしい映画でした。