「日常のきらめきを、アニメがみずみずしく蘇らせる」おおかみこどもの雨と雪 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
日常のきらめきを、アニメがみずみずしく蘇らせる
細田監督の空は、どこまでも青い。緑は瑞々しく、水は眩しいほどにつややかだ。そんな世界を、おおかみこどもの「雨」と「雪」、そしてにんげんの母親「花」が思う存分駆け回り、きらきらと生命力を放つ。
育児中の身には、この物語は一際しみる。にんげんのこどもも、暴れっぷり・散らかしっぷりはおおかみこども並み。居たたまれないほどの泣きわめき声も、胸がきゅんとなる玉のような大粒の涙も、安心を求めすり寄ってくるときの愛くるしさも。…見覚えのある情景が、次々に描き出される。ああ、そうそう、確かにそうだ、そうだった。…と、日常過ぎるあれこれを、アニメを通して新鮮に実感することができた。
男の子の母親として特に印象深かったのは、あるきっかけから急激に変化していく雨の物語。実体験のない異性の成長は、心身ともに不思議なことだらけ。親とはいえ、ちょっと不安でもある。子であっても、所詮は他人、自分とは別の存在。いつかは親ばなれする、してもらわないと困る…と思いつつも、「その日」が来るのが少しさみしくもある。
花が子連れで働き始めた自然観察センターで、幾度となく並んで佇む花と雨。母にくっつくようにしていた雨の視線は次第に深く、遠くなっていき、彼ひとりの行動が増えていく。ちなみに、私は息子をたいてい前向きに抱っこする。前向きでスタスタ・てくてくと公園を散歩し、買い物をする。同じ向きで歩けば、同じ景色が目の前に広がる。けれど、同じものを見ているとは限らない。ときどき、ジーッと真顔になる息子に気づき、何を見つけたんだろう?何を思っているんだろう?と首をひねることがある。言葉を発する前から、すでに彼独自の世界がかたちづくられているんだなあ…と頼もしく、それでいて取り残されたような気持ちになる。すると、今度は急に振り向きニッコリされ、何にもかえがたい至福をふいに感じるのだ。
何はともあれ、今を大切に、日々を丁寧に過ごそう。そう素直に感じさせてもらった。