「【”生きててね、生きてそこに居て”と不甲斐ない僕に母は優しく言った。今作は、生きる辛さを抱える人々を描くことで、逆説的に、この世に”生”を受ける尊崇さを描いた作品である。】」ふがいない僕は空を見た NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”生きててね、生きてそこに居て”と不甲斐ない僕に母は優しく言った。今作は、生きる辛さを抱える人々を描くことで、逆説的に、この世に”生”を受ける尊崇さを描いた作品である。】
■無気力な高校生の卓巳(永山絢斗)は、友人に誘われて訪れた同人誌の販売会で、コスプレ好きの主婦・里美(田畑智子)と出会う。
卓巳は里美との肉欲に溺れていくが、同級生の七菜(田中美晴)に告白されたことで彼女との関係を絶とうとする。
しかし、ふたりの情事が里美の夫(山中崇)と義母(銀粉蝶)に知られ…。
◆感想<Caution! 内容に触れています。>
ー 今作には、多くの厳しき日々を送る男女が描かれている。ー
・中々、子が出来ない事を義母に責められる里美。彼女は、その鬱屈した想いをコスプレにのめり込むことで、紛らわせている。そして、知り合った卓巳と男女の関係を持ってしまう。
- 銀粉蝶扮する義母の、彼女に子を要求する姿はホラーのようである。-
・里美との関係がSNSで拡散してしまった卓巳。彼は、学校に行けなくなってしまう。
・卓巳と仲の良い振りをしつつ、男に逃げた母の代わりに、認知症の祖母の世話をする、福田(窪田正孝)
- コンビニでバイトする彼は、卓巳の母(原田美枝子)が気遣って作ってくれた弁当を、無表情に捨てる。そして、賞味期限を過ぎた弁当も捨てる姿。自分が、食に飢えているのに・・。ー
・そして、福田は同じコンビニでバイトするどこか屈折しているあくつと共に、卓巳と里美のSEX写真を嬉しそうにばら撒く。
- 様々な鬱屈を、発散しているのであろう。-
・福田に対して、”学が必要”だと説く、コンビニのバイトの先輩、田岡(三浦貴大)。病院の息子で、金持ちだが彼も又、闇を抱えている事が彼の言葉と、その後に発覚した事実から分かる。
■前半は、観ていてキツイシーンが多いが、原田美枝子演じる助産婦でもある、卓巳の母の、巨木の様な”人間肯定的存在感”が際立っている。
彼女は、卓巳を責める事無く”生きろ”と励まし、認知症の祖母が水道を出しっぱなしにしてしまった、福田の家に弁当を届ける。(彼は、その弁当を貪り食う・・。)
<ラスト、卓巳は母の言葉に後押しされ、学校に行く。いつの間にか、横には福田が並走している。学校に付き、静まり返った教室で揶揄いの言葉を投げつけられるも、彼はその生徒の前に行き、照れ臭そうに微笑む。
そして、彼の担任の女性のお産のシーン。
卓巳は母たちの、助力もあり無事男の子が生まれる。
今作は、多くの生き難い日々を過ごす人々の姿を通じて、この世に”生”を受ける尊崇さを描き出した作品である。>