「希望に満ちた若夫婦はなぜ闇に落ちてしまったのか?」幸せの行方... 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
希望に満ちた若夫婦はなぜ闇に落ちてしまったのか?
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あまり知られていないけれど、本当に薄気味悪くて面白い。金持ちのぼんぼんが親の反対を押し切って結婚するが、妻が失踪。ぼんぼんが妻を殺害した犯人だと疑われ……と、三面記事のようなスリラーに思えるが、これがほぼ実話の通り。ところがこの実話、もっと奇妙でややこしい。
殺害犯だと疑われた夫も行方不明になり、その後、別の殺人事件の容疑者として逮捕される。ぼんぼんはある中年男性を殺したらしく、しかも、見知らぬ町で女装しながら暮らしていたという--。
あれれ、ちょっと話があっちこっち行き過ぎていませんか? しかし実話ベースなんだからしょうがない。この映画は、まったく理屈が通らない、理解しがたい夫婦のストーリーを、理解などできないままに、素晴らしい演技と美しい映像で綴っていくのである。そもそもが理解不能な話なので、戸惑うのも仕方ない。しかし、人間の弱さ、愚かさ、そして理不尽なことをしでかす心の迷宮が、そのまま提示されていて実に不気味なのです。
そして人間の不条理さを体現したライアン・ゴズリングと、ただただ不運だったというしかない妻をナチュラルに演じたキルステン・ダンストのふたりも本当に素晴らしい。しかもモデルになった男性が撮影現場の見学に来ていたという逸話もあって、これまた薄気味悪さが増すのである。
モデルになった男性は後に自分の犯行を思わぬ形で自供することになるのだが、それは現実の事件であり、この映画とはもはや関係がない。本作が醸すシュールな詩情は、現実がベースだとしても、創作から生まれた別種の賜物だと思っている。
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