劇場公開日 2012年5月19日

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「リメイクによってむしろあがる株」サニー 永遠の仲間たち 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5リメイクによってむしろあがる株

2020年9月7日
PCから投稿

知らなかったがカンヒョンチョルはスウィングキッズの監督でもある。
寡作だが完全主義で、興行も批評も手堅い。

2011年の本作は大ヒットし各国でリメイクされた。
wikiによれば香港、ベトナム、日本、インドネシア、アメリカ──のリメイクがある、または予定されているそうだ。

日本の大根仁監督版(2018)も見たが、カンヒョンチョル版には及ばない。
スタープレイヤー共演の話題性で、なんとか体裁を保っているけれど、本作(2011)から、妥当な冷却期間がなければリメイクできなかった──と思われた。

切実さがまるで違う。

映画は笑いの合間に、おびただしいほどのペーソスをもっている。
癌に冒され痛みに絶叫するチュナ。
貧困と悪姑に隷属するクムオク。
業績の悪い保険外交員のチャンミ。
場末の娼婦に身を落としたポッキ。
整形を繰り返し貢ぎ女に零落したジニ。
行方不明のスジ。
いちおうの安寧な暮らしを手に入れたのはナミだけである。

たのしかった青春時代から、散り散りになり、現実世界の辛酸をなめるサニーたち。──その切実さ。

このようにリアルな悲哀と笑いを共存させているドラマは、日本映画では殆ど見ることができない。

悲劇へ振ったら悲劇的、喜劇へ振ったら喜劇的なのであって、概して日本の演出家は悲喜を駆け巡ることができない。
その演出上の巧拙の格差を、リメイクによって感じ取らない──わけにはいかない。
ちなみにオリジナルのサニーは7人を描き分けている。
──和製リメイクでは人数を削いでいた。

80年代、全斗煥の韓国、民主化闘争に明け暮れる時代が持っている「蛮」が、さらにその切実さを裏付けている。
もともとギラギラした映画だった。
どだいコギャルから成長した日本版のサニーとは比べようもない緊迫があるのは当然だった。シンナーで恍惚となっているサンミ(チョンウヒ)も迫真だった。

理想と現実、シリアスなドラマと軽妙な笑い、自在なカメラワーク、濃く確かなキャラクタライズ。
回想から現在へ、現在から回想へ切り替わる変換のあざやかさ。
124分の長尺をいっきに見せる演出力。
見直して、なるほどスウィングキッズの監督だと再確認できた。

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津次郎