「俺はわるくない。」苦役列車 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
俺はわるくない。
沢尻エリカが捨て身の演技なら、負けじと男優は森山未來に軍配。
まぁ~よくやった(とはいえモテキもあるけど)といえるほどの妙演技。
ド汚い、卑屈、堪え性なしの、三大ロクデナシ男だ。
ここまでイヤな奴っているのかなぁ?と思えるほど情けない奴だった。
と私が思うのは、自分が周囲に合わせて我を殺すのが常だからで、
これだけ毒舌を吐く欠落男が、なぜ救われる?と思ったからだろう。
いきなり結末(というか現実?)を吐いてしまえば、
こういう人間はやはり物書きになるのが一番だ!そう思ったりする。
体制に抗う力などない。社会に台頭する能力もない。そして金もない。
あるのは能書きを垂れる口と、中卒ながらモノを見る目が確かな処。
世田谷・下北問題を延々と語り、やっとできた友人の彼女に嫌われる、
なんていう下りは最高に面白かった。
社会に見捨てられた、とクドクド文句を垂れるのはまだいい。
他人には大いに嫌われるけど、他人に刃を向けるのは減らず口だ。
まさか本当の刃を向けてしまう、大バカ野郎な現代の若者とは違う。
自分の未来が暗いのは、自分の未来に期待が持てないのは、
ハッキリいって皆自分が悪いのである。社会のせいにするなである。
血の滲む努力すら報われないと嘆く昨今の不況の中で、
どっこい生きている若者たちだっているのだ。こんな何の未来への
期待も感じられない世の中でだって、幸せに暮らす道は探せるのだ。
この物語の北町貫多は延々と苦役列車に乗車し続けるが、
それは自業自得であり、自らが招き入れた成長の糧なのである。
原作は未読だが、
原作者はおそらくそんな自分に、やや酔ってるんじゃないかと思う。
大勢に迎合しない、ノビノビと卑屈な生き方が面白い。
その毒舌を文字に載せて、バンバン世俗をぶった切って下さいな。
反撥して、反抗して、ナシ続きの人生の中でまた傑作が生まれるかも。
…さて、それで今作の北町貫多。
自身の生い立ちや半生を嘆きながらも、何かと他人にすり寄り、甘え、
日銭は酒・タバコ・風俗に消え、それで日々をやり過ごしている若者。
日雇い労働者の於かれた現実や、友人や彼女がいない男がどう毎日を
やり過ごすのかなど、勉強になる部分も多々あった。
情けない、なんていったら、すべての人間が情けないのは同じである。
高良健吾が演じる日下部や、前田敦子が演じる桜井が、ただ人の良い
若者なのは本当だが、貫多ごときに振り回されるのは明らかに情けない。
於かれた環境や価値観がまるで違う人間達が絡み合うのは面白いが、
どんなに親しくなっても相容れない部分が見えれば離れるしかないのだ。
上手に人間関係を築けない、損な性分の貫多に対し、
面白いことに本作は絶妙の反面教師(マキタスポーツ)を登場させている。
カラス貝に始まり^^;このクソおやじの言動が素晴らしく面白い。
そしてこういうイヤな奴が、貫多の未来に多大な影響を与えるのである。
挿入歌のタイトルまで素晴らしい→『俺はわるくない』だと。そうかい?
ハッキリいって多く印象に残ったのはこの二人しかいない。
胸やけがするほど見たくない画面が延々と映し出されて、なんて長い
グダグダ作品かと思ったこの苦役作が、自分にこんな感想を齎すとは、
やっぱり映画にはムダな描写なんてひとつもない、ってことなのねぇ。
(家賃を踏み倒すのはいい加減にしなさいよ。大家さんに苦役はやめなさい)