セルビアン・フィルム : 特集
46カ国以上で上映禁止!誰にも鑑賞を薦められない!
監督がこれほどまでに“卑劣で残酷な”映画を作った理由
話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。その内容のあまりの過激さに全世界46カ国以上で上映禁止、上映された国でも多くのシーンがカットされるなど物議を醸したセルビア製ゴア・スリラー「セルビアン・フィルム」の4Kリマスター完全版が、7月16日から3日間限定で劇場公開前プレミア上映される。
妻子のある経済的に困窮した元ポルノスターが、高額のギャラが支払われるという仕事の誘いを受け、内容を確認せずに契約を結んだことで人生が急転。それはなんとブラックマーケット向けに実際の拷問と殺人を記録するというものだった……。
想像を絶する底なしの地獄を体験する主人公、卑劣で残酷な描写の連続で、タフなホラーファンでも思わず目を覆いたくなること必至な本作は、2010年に東欧セルビアで製作され、日本では2012年に公開。10年前の公開時にも大きな物議を醸したが、今年、新たに4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」が劇場公開されるということで、このほど映画.comがスルディアン・スパソイエビッチ監督にオンラインインタビューを敢行した。
シネマ映画.comで今すぐ見るセルビアン・フィルム(スルディアン・スパソイエビッチ監督/2010年製作/104分/R18+/セルビア)
――表現というものに対しての倫理観を問われるような、大変な問題作だと思います。なぜこのような物語を思いつかれたのでしょうか?
これは私のデビュー作になりますが、まずやりたかったのは自分の感情に直感的にアプローチし、何も抑えることなく表現することでした。そして、これまで見た映画から受けた影響や、自分が作りたいジャンル、そういったものを組み合わせた結果です。
アイディアが生まれ、その後脚本家とやり取りし、自分たちの社会や政治、芸術について考えていることをブレインストームしていきました。当時も今も、生き抜くにはいろんな規制があり、芸術は政治家や権力に制約を受けていました。アートも映画も、ポリティカルコレクトネスが必要だという空気があり、それが映画製作者、アーティストを窒息させている状態でした。
そして、自由な社会とはいえ、自分のなかで検閲をかけ、我々も脚本を書く前に、この話は大丈夫だろうか? と、様々なことを考えなければいけなかったのです。しかし、それが嫌で、純粋に妥協せずに自分の全てを出し、組み合わせたものがこの映画のはじまりです。当時、自分たちの感情はポルノの世界のようだと思っていたのです。そこで、この映画のベースはポルノ映画が良いのでは?ということとなりました。
――タイトルを「セルビアン・フィルム」とした理由を教えてください。
タイトルは脚本家のアイディアでした。私は撮影、編集中にこのタイトルは、あまりにもシンプルで直接的で良くないのでは?と感じていました。しかし、映画が完成した後、このタイトルが全てを表現しているのだと気づいたのです。当時、西欧諸国が好む東欧の映画は、貧しい国で作られた、被害者、難民などを描いた作品であるように思いました。私のそういった感情と、アートの表現、ポリティカルコレクトネスといったすべてを表現しています。
――セルビア国民は宗教や政治イデオロギーなど様々な対立に巻き込まれてきました。この作品が撮られた背景に、当時の社会情勢も大きく関係しているのですね。
セルビアは、めまぐるしい時代を過ごしてきました。共産主義が社会主義となり、民主主義にはなりましたが、またもや民主主義ではない状況に戻っています。もがき続けるような時代がセルビアにはありました。私にとっての一番大きな変化が2000年です。共産主義と社会主義が崩壊し、大きな転換点でした。何十年も共産主義の社会だったのですぐに民主主義となることは難しかったのです。
――この作品が製作された年から、10年以上たちました。現在はインターネットで無修正のハードコアポルノが見られるのはもちろん、各地で起きている戦争も凄惨な映像がポルノ的に消費される時代となっています。「セルビアン・フィルム」はある意味、今の時代を予見していたようです。
現在のSNSでの状況は10年前も同じだったと思います。情動的な映像を見たいという人間の欲望は変わっていないのです。だから私はこの映画を作ったのです。残酷なシーンはSNSだけではなく、テレビのニュースでも流されます。
映画を公開禁止にしたり、アートに規制をかけたりする、検閲をする場がある割には、現在のウクライナの戦争も、ニュースで殺戮や暴力を見せている。そういう意味では、規制を作る方が頭がおかしいのでは?と私は思うのです。そこを当時も今も、この映画で指摘したかったのです。今回、改めて無修正版が日本で公開されることをうれしく思っています。
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