「青い塩のトリッキーな設定に少々酔ってしまい、後半の展開が予定調和になったのが惜しいと思います。」青い塩 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
青い塩のトリッキーな設定に少々酔ってしまい、後半の展開が予定調和になったのが惜しいと思います。
最近、過激さばかりが目立つ韓国映画の中で、アートな透明感を持った作品だと思います。タイトル通り青が基調の透き通るような映像が印象的。青みがかったスタイリッシュな映像が、抑制された主人公2人の内面を映し出すかのようで美しいのです。
ヤクザを主人公にしたハードボイルドタッチとなるかと思いきや、ちょっと惚けた彼氏とツンデレな彼女という韓国映画の伝統的ラブコメストーリーを踏襲していて、意外でした。
主人公2人のふたりは、恋人というよりも、見た目は少女とアジョシ(おじさん)と言う関係。韓国でしばしば作られる“アジョシ映画”の新たな一本ともいうべきでしょう。
冒頭に、田園風景のなかで主人公が女性のスナイパーに殺されるという衝撃的なラストシーンで始まる本作。このシーンをドンデン返しするのも、塩が絡んでいるというくらい、「青い塩」がキーワードになっています。但し、そのあっという仕掛けのアイディアに少々酔ってしまって、後半のストーリー展開が予定調和的に片付けられていったことと、主人公を暗殺に向かわせるヤクザの権利争いの構図が説明不足で解りにくくなってしまったことが残念です。結局ドゥホンの組織のトップが暗殺された背景は明かされずじまいに終わりました。
ちょっとネタバレしにくいのですが、ラストのドンデン返しは唐突過ぎて、そんなの有りかと思ってしまうでしょう。
ただ自分を殺すスナイパーと次第に恋に落ちていくあり得ない展開を、ちょっとドキドキした緊張感を含みながら、コミカルに描く前半は見応えありました。韓国映画のハードボイルドは、過剰な暴力と破滅的な展開に拒絶している人でも、本作なら大丈夫。韓国で大ヒットした恋愛映画「イルマーレ」を監督したイ・ヒョンスン作品だけに落ち着いた大人の味わいがあります。ラブコメとハードボイルドが一緒に楽しめる作品としてお勧めできます。
プサンの港町。伝説のヤクザと呼ばれたドゥホン(ソン・ガンホ)は、現在は引退し、プサンで食堂を開こうとしていました。料理教室にも通うが、そこで隣席のセビン(シン・セギョン)という女の子と親しくなります。しかし、実は、セビンは多額の借金の返済のために、ヤクザの便利屋として、ドゥホンに接近し動向を探っていたのでした。
実はセビンはオリンピック候補になるほどの射撃の名手。親友をドゥホンに殺されたと思い込んで、暗殺者に転じてしまいます。組織の大物だったドゥホンは、引退後も組織から命を狙われていたのです。
ヤクザのドゥホンが料理教室で料理音痴ぶりを発揮し、そこをセビンが突っ込むところが面白かったです。アンバランスな掛けあいが、コミカルな味わいを醸し出すのですね。
主役はソン・ガンホ。ヤクザに追い詰められこころに深手を負っているセビンを深く受け止める柔和な中年男を軽妙に演じているところが素敵です。ただある瞬間、殺気を全身にみなぎらせて怖さを感じさせるところは、さすがに名優だけのことはありますね。
セビンを演じるのはシン・セギョン。この小柄な美少女が強い意志と行動力で、ツンデレな少女の可憐さとスナイパーになったときの殺気だった緊迫感をきっちり演じ分けているところは新人ながら凄いと思いました。彼女の演技が、この作品のあり得ない設定を上手くカバーしていると思います。
セビンがスナイパーとして、ドゥホンを狙う二つの隣接した超高層ビル上階間のシーンは、なかなか見応えあるシーンでした。このあと組織の殺し屋軍団が乱入して激しい銃撃戦となります。離れたビル間を跨ぐ激しいアクションシーンは、本作ならではの新機軸でしょう。
ここで活躍する主人公の弟分役のチョン・ジョンミョンも、なかなかの侠気を見せて印象的でした。
ところで本作では、プサンの海辺の風景やソウルの夜景を捉えた映像は、そのまま観光用のPRビデオになりそうなくらい洗練されていて美しいのです。
そして多彩な料理が料理教室のシーン以外にも出てきます。ユニークなのは、プサンの浜辺にある屋台で出されるセルフバイキング方式の漁師鍋。なんと材料を好きなだけ客が鍋に放り込んで、自分で調理するのです。好みの材料がなくなった場合、店の婆さんに頼むと、速攻海女着に着替えて、潜って取ってくるところには笑ってしまいました。
セルフのうどんは全国チェーンになっただけに、セルフバイキング方式の漁師鍋もどこかのチェーンが仕掛ければ流行りそうですね。