「原作未読」終の信託 おかずはるさめさんの映画レビュー(感想・評価)
原作未読
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法律上の理屈では、現実の課題は何ら解決されないという事がよくわかる映画。
死を受け入れるには、遺される者が納得できる物語を必要とする。前半から中盤にかけて、役所広司の患者のひととなりや何を考えているかを丁寧に伝えている。終盤に物語のキーとなる日記も、実務処理に長けていて、深い考えを持った人物として描くためのアイテムとして効いている。
それらを共有した観客は、主人公の医師の判断をおそらく支持するだろう。本来なら、役所広司の患者は、家族にきちんと自分の意思を伝えるべきなのだろうが、それも期待できないこともきちんと描いている(家族にコミュニケーションは成り立っていない)。
行きたかった旅行も果たし、家族に負担をかけることに堪えられない彼にはもう人生に希望はないのだ。
その一方で、本当に彼が回復不能だったのかは、疑問が残るようにも描かれている。確かに医師が集えば、生命の尊重に傾くものなんだろうが、本来はあらゆる観点から議論しつくした上での結論を導くべきなのだろう。主人公は、患者の私生活に思い入れが過ぎたのかもしれない。それに至るには理由があるから、その哀切が心を打つ。
そういったまとめきらない前提を持った「事件」を処理するために訴訟がある。問題を解決するためには、訴訟で明らかになった事実を現実にコネクトしなければならないと想う。良い映画です。
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