「地獄の真ん中で課せられた一世一代のドッキリ大作戦」アルゴ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
地獄の真ん中で課せられた一世一代のドッキリ大作戦
先週の『ゼロ・ダーク・サーティ』に続き、アメリカとアラブとの厄介なトラブル収拾に右往左往する災難を描いた実話を観賞する流れとなったが、印象も世界観も面白さも全て真逆の迫力に終始、呑み込まれていった。
ソ連のアフガン侵攻問題と共に、アラブ諸国に反米感情を根付かせる根本を生んだ事件のため、やり取りが常に痛々しい。
当時のニュース資料を素材に綿密に再現した映像美のざらついた質感が、服装、時代性etc.全てにおいて、ギャップを感じさせず、展開にリアリズムを一致させる。
そして、緊張の波が押し寄せてくるにもかかわらず、つい笑いそうになってしまう油断こそ今作最大の魅力を形成している。
それは、アメリカ職員という身分を隠すべく、ロケハン中のカナダのB級SF映画製作スタッフやとデッチ上げるという奇想天外なプランに尽きると思う。
欺き通すために用意周到かつ、破れかぶれに仕組まれた計画に映画を選ぶ価値観は、如何にもアメリカらしく、身分や国籍なぞお構いなしに皮肉たっぷりな毒で丸め込む開き直り精神もアメリカらしさが光る。
殺気めいた空気が充満している中、スケールの大きいドッキリ感覚で進むトンデモない格差が、窮地に追い込まれた人間の業を浮き彫りにし、牽引力のエンジンと化すのだ。
事前の情報で作戦が成功したのを承知なのに、常に先の読めない緊迫感に襲われたのは、周りのありとあらゆるイラン国民が敵か味方なのかはおろか、何を考えているのかサッパリ解らないからやと思う。
人種に対する偏見以外の何物でもない不気味なオーラは、イラン・イラク戦争、湾岸戦争etc.衝突する度に誇大化し、9・11で大爆発を生じる。
崩壊し複雑化を辿る影を象徴したのが、『ゼロ・ダーク・サーティ』
その闇の原点に位置するのが今作
2本を照らし合わせて観ると、アメリカを取り巻く渦の深さを伺い知る事ができると思う。
では最後に短歌を一首
『星の灰 フィルムを巻いて 二枚舌 ロケに追われし 客の帰路かな』
by全竜