「うーん、上手い、面白い、でもなんか気にいらねぇ」フライト しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
うーん、上手い、面白い、でもなんか気にいらねぇ
こういうデンゼル・ワシントンを見れて良かった
まずは、いっておかなければならないだろう。
腕に刻まれたくすんだタトゥー。ブヨブヨのお腹。しかしそこにはモデル並みの体型の裸の女性がいる。その女性の前で、前妻との電話のやり取り。彼はパイロットだ。その日はフライトで、出かける前にドラッグでしめる。
つまり彼はイケてるおっさん、俺たちからするとすげえ憧れの存在なのだよ。
これだよ、さすがデンゼル。
このイケてるおっさん、乱気流を妙なテンションで突き抜け、一杯引っ掛けた後、例の事故が発生する。
ここの時のデンゼルの演技がイイ。絶対助かるのは分かっているのだが、アルマゲ丼のようなパープーなノリではなく、自分を周りを冷静に、勇気をもたせる行動に説得力がある。
この主人公、クソでは決してないのである。人格的にもイケてるのである。
ただ酒が止められないだけなのだ。
オレは酒飲みでないのだが、まあ、タバコを20年かけてようやく止めることが出来たぐらいなので、依存についてはまあ、分からなくは無い。
彼のだらしなさ、というか依存度は使い古された古典ロックとともに滑稽に描かれるが、このあたりは「敢えて」の観客から怒りを買う演出なのだろう。
しかもデンゼルも上手すぎて、このオトコがだらしないクズ、ではなく、やっぱりイケてるオトコとして見えるのがなんとも「味」ではる。
しかし、である。
最後は彼が自分を甘えさせてきたことについにケリをつけ、刑務所に入って、子供と仲良くなって、心の救済を得るのである。
そんな甘い話は無い。
「酒を飲みました」「酔っ払ってました」
と告白すると、
「ほおらね、あいつはやっぱりああいうやつなんだよ」
と家族から、関係者から思われて終わりである。
ゴミのようにうなだれて刑務所で廃人化するのが普通である。
人身事故と飲酒は本来
「酒を断たなければ、こんなひどいことになるよ」
で描かなければダメだと思う。
「酒を断ったら、いいことあるよ」は言ってもいい。
しかし、それと飛行機事故の数人の死者、飛行機事故は機器の故障、という
なんとも「酒飲みの改心映画」には落とし込みたくない製作陣のウマさ、というかあざとさが目に付いてしょうがないのである。
ましては、デンゼルやチードルのような芸達者(今回のチードルはかわいい)で見せられると
「うーん、上手い、面白い、でもなんか気にいらねぇ。」
ほか
予告サギって言っちゃイカンが、ラストまでみて
「ああ、こういう映画だったのなら、もっと細部をきっちり観とけばよかったわ」
とは思うし、案外、何回も観たくなる映画ではある。