「トラと息子と恋愛と。」幸せへのキセキ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
トラと息子と恋愛と。
原作本の存在はまったく知らなかったのだが、
なんともストレートな原版タイトル「僕達は動物園を買った」
に触発されて、ちょっと調べてみた。
今作の内容も素晴らしかったが、実話はもっと素晴らしいと
彼のインタビュー記事を読んだだけで、そう思った。
閉園されれば殺処分される動物達を彼が救ったのである。
実際には奥さんが生きていた頃、この動物園を買っている。
(奥さんはすでに脳腫瘍と診断されていた)
大反対されて(汗)、資金繰りも大変だったそうだ(今もそう)
それでも動物の研究の為になると目的が明らかな彼に対し、
当初は反対していた奥さんも同意してくれたのだそうだ。
開園に向けて皆で頑張っている最中、ついに奥さんは倒れ、
再オープンの前に40歳の若さで亡くなってしまう。
遺された彼と子供達、飼育員たちの葛藤と熱意は、今作で
描かれた通りなのだろうと思う。
ド素人が簡単にやってのけるレベルではなかっただろうが、
よくぞ頑張ってきたものだと、未だに挑戦し続ける彼の
熱意と動物への弛まない愛情に、やはり私は感激してしまう。
…近けりゃ行きたいけど、遠いんだものなぁー(汗)
さて映画版の方は、亡くなった妻を忘れられない夫と子供達、
心機一転で田舎へ引っ越そうと物件を探していた矢先、
破格の好条件(見た目は)で理想の住まいを探し当てたのだが、
なんとそこは…動物園付き(まずないけど、普通)だったのだ。
このままいけば閉園となる動物園を(もちろん従業員付き)
娘の喜ぶ顔が見れたから~♪と買ってしまう主人公。スゴイ。
こういう後先考えない選択って、絶対オトコのやることだ(爆)
しかしこのベンジャミンというお父さん(いい味出してるマット)の、
飄々と頑張る姿はとても清々しい。いかにも~な人情劇で
描かれる唐突なドラマチックさや盛り上がりには欠けるが、
淡々とした日々の積み重ねと…重要な資金繰り(これが一番か)
寸でのところで亡き妻に救われ、無事に開園へとこぎ着ける…!
そう、いってみればただそれだけの、シンプルなお話なのだ。
そこへ様々な葛藤や恋愛問題(これが必要か不要か?)を絡め、
更には極上の音楽(K・クロウといえばこれよね)が流れる中で
家族の温かみや有り難さを笑いと涙で包んだような物語だった。
もちろん極悪人は、ひとりも出てこない。兄も敵役もいい奴だ。
息子と父親の和解のシーンが一番よかった。
親に愛されたいと拗ねてしまう反抗期の息子は確かに扱い辛い。
ここは母親の分、父親がうんと甘えさせてあげなければ難しい。
子供にしてみれば、なんで妹ばかり可愛がって、オレのことを
嫌うんだ?としか思えないんだよね。動物園と子供とどっちが
大事なんだ!?と聞かれればもちろん…だが、親の一大危機を
子供だって、ちゃんと見ているのだ。素直になれないもの同士、
ちょっとしたキッカケで歩み寄る「トラ」の絵も上手かったなぁー。
(スカヨハもいい味出してるわ。石田えりみたいな風情を出してる)