「イギリスが嫌いになること請け合いの映画。」マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 bashibaさんの映画レビュー(感想・評価)
イギリスが嫌いになること請け合いの映画。
個人的に印象に残っているのは、フォークランド紛争に積極的に介入していく過程です。アルゼンチンと戦火を交えてはならない、と説得しにわざわざ訪英したアメリカの国務長官に対して、サッチャーは「1941年に真珠湾が攻撃されたとき、アメリカは日本(東條英機)と話し合いをするどころか、すぐさま反撃したではないか、だから、我々はアルゼンチンに攻撃を加えるのだ」と反論していました。1980年代になっても、いまだに帝国主義気分が抜けていない彼の国に対して、言いようのない不気味さを感じました。いまだにジブラルタル海峡やフォークランド諸島はこの島国の領土です。それにカナダ、ニュージーランド、オーストラリア、インド、マレーシア、など52か国とイギリス連邦などという気味の悪い集合体を作っています。そうではありながら、英語が国際語としての地歩を確固たるものにしている事実を考えたとき、私は大きな疲労感に捉われます。
話を映画に戻すと、晩年、認知症に罹り、狂気と戦うサッチャーを演じたメリル・ストリープを見るだけでも、1800円を払う価値はありそうです。メリル・ストリープは丁寧なイギリス英語を話していました。退陣間際、人頭税の導入を巡って、殆どの閣僚の反感を買い、国民からは実力行使の猛反発を招き、一人、孤立を深めていくサッチャー。その描写は水際立っていました。衰退していく20世紀後半のイギリスにあって、19世紀の大英帝国の栄光を取り戻そうと孤軍奮闘した、時代遅れの宰相、それがマーガレット・サッチャーなのです。
尚、邦題は冗長すぎます。「鉄の女の涙」とありますが、劇中で、この題名に相応しい「涙」を流す場面は皆無なのですから。「The Iron Lady」 を直訳して、「鉄の女」で十分でしょう。