「試写会では、大イビキをかいてしまった観客も出て、そのイビキの凄さのほうが映画よりも受けてしまう始末でした。」綱引いちゃった! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
試写会では、大イビキをかいてしまった観客も出て、そのイビキの凄さのほうが映画よりも受けてしまう始末でした。
とにかく水田監督の悪のりが過ぎていると思いました。コメディで定評のある監督だけに、場面ごとのくすぐり方は絶品です。 美人女優の井上真央を見事にコメディアンヌとして演じさせてしまった手腕はお見事というほかありません。
けれども、本作のような何かを達成させる街おこし映画では、コミカルさも大切ながら登場人物たちがいろんな壁とぶつかりながら、目標に到達する感動がしっかり描かれなければいけません。その点ではトータルの盛り上げが弱く、尻切れトンボの終わり方と相まって、薄っぺらい印象を抱いてしまいました。東宝作品というよりも、日本テレビの映画なんだといったほうがイメージしやすいでしょう。日テレのドラマにありがちな軽妙なタッチなんです。ながら見のテレビならいいでしょうけれど、お金払って大きな画面で見る映画なら、もっと人間ドラマのところを描き込んで、チームが一丸となって綱引き大会にむけて結束する姿を描かなくてはいけません。それが通り一遍の群像を描いただけで、何かアリバイをつけたような、お涙頂戴の葛藤シーンに見えてしまうのは、物語全体の構成力に問題があるからだろうと思います。
おかげで試写会では、大イビキをかいてしまった観客も出て、そのイビキの凄さのほうが映画よりも受けてしまう始末でした。
それに大分市の全面協力で製作されている企画にしては、地元をバカにするのも程があります。
冒頭からして、大分に訪れた修学旅行生に対して、市長が大分はどこですかと質問して修学旅行生たちは、ぜんぜん違う場所を示すところなど、大分にとって自虐ネタで勝負しているのですね。だから、こんな映画企画に飛びついて、せめて大分という場所だけでも知って欲しいという気持ちがあったのでしょうけど、その後に登場する劇中の大分市長は、かなりのいい加減な男として描かれており、地元から総スカンされそうな勢いなんです。自分から綱引きチームを提案しておいて、優勝すれば廃止が決まった給食センターの廃止を撤回すると約束しておきながら、有力な業者が給食事業の外注化を申し出ると、手のひらを返したように態度を変えて、約束を反故にしてしまうのです。そんな内容で、よくまぁ大分市は納得したものです。
それと登場人物の台詞回しが、標準語に近いのも気になります。故郷の松山から別府までよく足を伸ばしていたので、大分の人間の気性は九州男児ながらもおっとりしているのが特徴なんです。本作は、コミカルさを狙う余りシャカシャカしていて気ぜわしいのです。そんなところも地元から何か違うぞと突っ込まれる要因となるでしょう。
物語は、女子綱引きチームの奮闘を描く人情コメディー。大分市役所広報課に勤める西川千晶は、市長から市のPRのため、女子の綱引きチーム結成を命じられる。困った千晶は、母の職場で、廃止が決まった給食センターの仲間を説得。全国大会出場まで勝ち抜いたら、給食センターの廃止を取り消すよう市と取引をします。知名度が低い大分を何とかしたいという市長の思惑に合致して、市の後援で給食センターの在職者による女子綱引きチームが結成されました。
家庭の事情を抱えた8人のメンバーは、イケメンの公雄にコーチを依頼。さっそく練習を開始します。最初の練習試合で小学生チームに完敗するところが傑作です。
メンバーのやる気なさに切れた千晶は、チームから脱退を表明。けれども、メンバーの込み入った家庭事情を知った千晶は、みんなのために頑張ることを決意して、再び練習に復帰します。
なんといっても、これまで培ってきたイメージをかなぐり捨てて井上真央が普通の市役所職員に成りきって、熱演しています。ただ、同じチームに母親も参加しているのに、親子に関わる葛藤が描かれていません。他のメンバーにはとってつけたような親子にまつわる泣きのシーンがあるのに、不自然だなと思いました。
練習のなかで次第に地力をつける綱引きチームでしたが、大会直前となって、市長の身勝手な理由でチームは解散に追い込まれます。ここからラストにかけて、かなり急展開で中途半端な終わり方。90分の作品ならあと30分付け足して、納得できるエンディングを用意して欲しかったです。
それでも、かつてオリンピックの正式種目だったという競技としての綱引きの魅力。とくに一本の綱が参加する全員の心を一つに結ぶのだという綱引きの精神には心を引かれましたね。大事なのはチームワークで意外に奥が深いところを劇中でも感じさせてくれます。綱娘たちの悪戦苦闘を笑いつつ、人生は団体戦かもしれないと思えてくることでしょう。