「家を無くしたスパイ」顔のないスパイ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
家を無くしたスパイ
『3時10分、決断の時』『ウォンテッド』の脚本を手掛けたマイケル・ブラントの初監督作。
上記2作は好きだが、脚本が抜群!って映画という訳でも無かったよおな。
とはいえ本作、僕は割と楽しんで観られました。
わざわざ劇場で観るほど派手な内容とは言い難いが、
最後まで話に引き込まれて観られたので観て損ナシのスコア3.5判定。
予告編では『誰も顔を知らない伝説のスパイ・カシウスの正体は?』という
ユージュアル・サスペクツ的展開を匂わせていたが、
実際は『カシウスを模倣する殺人者をカシウス自身が追う』という話。
ちと肩透かしを喰らった感はあるが、
警察→本物→偽物の二重追跡構造という入り組んだ話を
上手く見易くまとめたなと思う。
それにやっぱりカシウスの殺しのテクニックがね、良いアクセントになってますよ。
腕時計に仕込んだワイヤーでサパッ!と喉元を切り裂く、残忍且つ鮮やかな手口。
うーん、ろしやの殺し屋おそろしや(←ひどい)。
演じるギア様はまるで悪党には見えないが、
単なる殺人マシンに見えない配役にしたかったと思えばね。
けどあのドンデン返しは不満。
実は僕はあの展開を読めずに結構驚いたんだが、
そんなサラッとした流れで明かしちゃうの?と勿体無くも感じた。
“観客の意識を逸らす”という点では割と成功してたと思うが、
あまり伏線らしい伏線が張られてた訳でもないので、
「騙されたッ!」という快感は薄かったなあ。
まあ甘ちゃんな話に弱い僕は、互いを牽制しあう主人公2人が実は何十年もの間、
師弟のような関係を結んでいたという展開にグッときたりした。
気付いてみれば、子どもの頃から憧れていた男と同じ場所に立ち、
まったく同じ道を辿っていた主人公。だがそれに気付いた時には……。
そう考えると、最後の展開は少し切ない。
「家に帰れ」という言葉に彼が従ったのは、
家族への愛情も勿論理由のひとつだろうが、
あの言葉がずっと尊敬してた男の、そして
昔々に帰る家を無くしてしまった男自身の願いだったからなんだろう。
……それにしても、
未だにアメリカ人は家庭的で暖かい、
ロシア人は冷たいというイメージなのかしらん。
たまには“強面だけど実はハートフル”みたいなロシアンスパイも観てみたい気がします。
例えばこう……チェブラーシカ大好き! 趣味はマトリョーシカ収集です!みたいな。
……いや、やっぱヤだ……。
<2012/3/4鑑賞>