劇場公開日 2012年6月2日

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外事警察 その男に騙されるな : 映画評論・批評

2012年5月29日更新

2012年6月2日より丸の内TOEIほかにてロードショー

腑抜けた邦画娯楽作の現状に投げ込まれた“大量破壊兵器”

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日本の知られざる諜報機関に光を当てたNHKドラマの劇場版は、タブーへ果敢に斬り込んでいくゴツゴツとした硬派な社会派エンタテインメントだ。事件の背景には「24」が切り拓いたビビッドな同時代性が息づき、ドラマツルギーからは「ダークナイト」が到達した善悪二元論では語り尽くせぬ、世の中の有り様が浮かび上がる。

ピンと張り詰めた冒頭20分。朝鮮半島で濃縮ウランが流失し、国内では東北の避難区域で軍事機密が盗まれるという不穏な導入は、現実と虚構の境を曖昧にする。やや込み入ったプロットは、現実を単純化しすぎていない証だ。3・11後の混乱を捉えた古沢良太のスピーディな脚本は、非情な展開と情実を利用する工作活動の実態を巧妙に絡ませていく。国益を守るためには手段を選ばないダークヒーロー、渡部篤郎の冷酷。危険に身を晒す容疑者の妻、真木よう子の激情。核開発の鍵を握る在日二世科学者、田中泯の凄味。核テロの未然防止というミッションをめぐり、哀しみを帯びた怒りが衝突し合う。

公安の最大の武器は、明晰な頭脳と相手の感情を操る言葉だ。ターゲットに近い民間人を調べ上げて弱みを握り、面倒をみて恩に着せ、抜け出せなくなった頃合いを見計らって全てを明かし、恫喝にも近い手口で協力者に仕立て上げる。正義とは思えぬ騙し合いと駆け引きが、この国独自のエモーショナルなスパイ・サスペンスを確立した。善を装う権力の暗黒面と、悪の仮面を被った弱者の切実な想い。テーマを台詞に委ねすぎたきらいはあってもなお、危うい魅力を放っている。これは、腑抜けた邦画娯楽作の現状に投げ込まれた“大量破壊兵器”である。

清水節

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