「若松監督だからこそ出来た、迫力の力作だ!」11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
若松監督だからこそ出来た、迫力の力作だ!
TVの昭和の実録大事件の特集番組で必ず放映されそうな天才作家三島由紀夫の自衛隊での乱入占拠後の割腹自決までの経緯を淡々と描いて行く本作「11.25自決の日」には、作家三島由紀夫の狂気的な美学の追求の果ての、その生き様の淋しいまでの最期の模様が、切々と観る者の心に響き渡って来る力作であった。
三島文学は、私などには正直、難し過ぎて理解出来ないでいる事が多いのだが、彼の作品を読んでいると、文学者としての完璧主義が過熱し、三島自身が信じる理想主義思想が留まるところを無くして、時代が移り変わり往くその、現実社会の時代の変化を受け入れる事が出来なくなる、その結果、1970代へと差し掛かる日本の高度経済成長過程にあるあの時代の社会の変化を、三島由紀夫は戦前に会得した日本に対する彼の美意識が彼の中で完成していて、その枠組みから外れた70年代日本社会を全く相容れる事が叶わず、完全なる理想主義を貫く彼の思想は、彼自身を生かす事すら出来ない程に、彼自身を追い詰めて行ってしまった。ある意味彼は、あの時代に殺されたと言った方が正しいのかも知れない。もし、別の時代に生を受けていたら違った人生を生きる事が出来たのかも知れない。
しかし、その天才作家の目が有るが故に、余りにも有る意味、ロマンチストで、妥協を許す事が出来なかったが故に、自らが自決の道を選ばざる負えなくなってゆく人生も、大変に波乱万丈な、苦難の人生だっただろうなと想像するのだ。
確かに我が国日本国の歴史は、天皇制の制定により、幾千年にも渡る長き時代の流れの中、その中心に天皇制の制定が有る事で、日本の国家の存続が今日迄、存続出来て来た事実がある以上、戦後のアメリカ主導型による戦後制作である我が国を骨抜きにした政策が、三島由紀夫には耐えがたい出来事だったのであろう・・・
そして、一方戦禍に苦しんだ国民が、高度経済成長期を迎え、経済的には国民生活は所得が上がり、生活が豊かになっていくので、それに異を唱える日本人は極少数派だったのだろう。
日本人たる者その精神性こそが日本人が生きる上で最も大切な生きる価値だと信じて、生涯を生き貫いた天才三島由紀夫の思考は完全に、現実の社会生活とのバランスが崩れていったのだ。そのバランスを欠いて行く過程を、若松監督だからこそ、丁寧に描き得る事が可能でもあった作品だと高く評価したい。
しかし、日本人は農耕民族で、定住し集落を形成し、作物を集落全体で作り、生活を維持して来た民族なので、基本的に温厚で柔和であり、一人一人の人間が協力し、責任分担しながら、農作物の栽培をして生きる、長い歴史的生活環境の背景が有り、日本人の文化が自然に、精神性を重視し、廻りの出来事に異論を唱えず、総てを受け入れながら生きると言う国民性を豊かに育んできたのではないだろうか?
自然の天候など、環境はコントロール出来ないので、不作なども起こる事にも忍耐強い精神が培われてきたのだと私は考えているのだ。その長い歴史の中で、日本人は御上のされた決断には、逆らわずに粛々と従って生きていく事を唯一の美として、無意識に、生きてきてはいないのだろうか?
しかし、どんなに天才作家と謳われている三島由紀夫であっても、自分の信念と思想で、満島真之介演じる、若き森田必勝を道連れにした自決は大きな罪だと私は思う!
本人が理想の日本の立て直しの為に自決を決意するのは彼の生き様として、彼の人生として潔い、良い幕引きとしても、未来のある青年達を洗脳し、自決させるに至る、彼の犯した罪は大きいのではないだろうか?
自分を信ずる若者を死に追いやるのは、決して良い事とは私は個人的には考えられないのだった・・・
寺島しのぶも、若松組として、「キャタピラー」繋がりで、今回も存在感充分で彼女の役処が輝いていた。
過ぎたるは及ばざるがごとしと、言う様に人が幸せに生きるには中庸が大切であると思うのだが、あの時代、若者世代に、極左した人達が多数いた為に、三島由紀夫は、その反動で一心に極右に生きる道を走り抜けなければならなくなってしまったのだろう、時代の犠牲者なのだろうと私は考えているのだが、みなさんは、どの様にこの映画を読み解くのか、楽しみである。
最後に三島由紀夫原作映画を記して置く。「春の雪」2005年行定監督「鹿鳴館」1986年市川崑監督は「金閣寺」「炎上」と名作を撮っている。
「黒蜥蜴」深作監督「幸福号出航」など皆大監督が映画化していて、「潮騒」は度々リメイクされているが、三島由紀夫自身が撮影参加した「憂国」は観てみたい作品だ。
海外でも「午後の曳航」が1976年に映画化されている。1985年にポール・シュレーダー監督による「Mishima: A Life In Four Chapters」が制作されたが、その撮影現場を見た事があるが、三島由紀夫の遺族の意向で、この作品は日本未公開の為、未だ観れないでいるのが残念だが、何時かアマゾンで取り寄せて観たい作品だ。