「ヴァイブレーター」「雷桜」など、常に新鮮な話題作を提供し続ける廣木隆一監督が、「君に届け」での好演が記憶に新しい蓮佛美紗子を主演に迎えて描く、群像劇。
あの日から、一年。テレビをはじめとしたメディアは、その残酷な運命と悲哀、それでも前に進んでいこうとする人間の強さを声高に叫んできた。そう、人はいつだって強く、強く歩き出さなくてはいけない。世界はそれを望んでいるし、それを形にして提示することこそが、正義だと信じて疑わない。
本当か?本当に、絶望という名の逆境に逆らうことだけが、正しいのか。この一本の作品は、静かに、控えめに、ただその疑問に確信をもって「NO」と突きつける。そんな立場の映画に思えてならない。
2008年、秋葉原で発生した通り魔殺人事件。その事件で恋人を亡くした一人の女性は、あてもなくその舞台となった街を孤独にさまよう。特に目的もなく歩き続ける女性に意志はなく、ただ目の前に道があるから足を動かす。
映画という一本の作品である以上、その道中には様々なドラマがあり、物語を抱えた人間達が現れる。通常の群像劇ならば、彼らが相互に作用しあい、新しい挑戦なりステージへと展開していく。だが、この物語は違う。
彼らは、流されている。進む理由もなく、ただ息をしている。それでいいじゃない。この作品を大きく貫いている姿勢が、ここにある。
秋葉原通り魔殺人と、あの日の震災。二つの地獄をテーマに据えた物語なのに、観客が不思議と心地よさを感じるのもその所以だろう。
「悲しいよね、つらいよね、でも、前向かなきゃ!ねっ、前、向け!」そんな押しつけがましい励ましが支配するドキュメンタリーとは一線を画し、「別にいいじゃん。泣きたきゃ泣けよ、流されたきゃ流されなよ」そんなゆるゆると突き放す作り手の真摯な優しさが、本作の題名「RIVER」にも表れている。
後半、あの日の震災を強く意識される描写が唐突に描きこまれるが、ここでも作り手は暴力的に「俺、強く生きていくぜ!」となだれこまず、ただ目の前の現実に打ちひしがれる小さな人間を丁寧に見つめる。それが冷たい観察ではなく、「いいよ、無理するなよ」と静かに見守る暖かさに満ちている。そこが、ただ、気持ち良い。
今の日本にあって、前を向いて、涙を拭いて笑顔を作ることは大いに歓迎したい。それが希望につながることは確かだ。でも、それだけじゃやっぱり、つらい。きつい。悲しい。ただ、ふらふらと時間に流される弱さだって、誰かに認めてほしい。
そんな、映画だと思う。きっと、今、そんな映画があっても良いと思う。
「のんびり、流されよう」