「おおっと、いけねえ。」クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
おおっと、いけねえ。
「パリ・オペラ座のすべて」などの良質なドキュメンタリー作品で知られるフレデリック・ワイズマン監督が、フランスはパリの老舗ナイトクラブ「クレイジー・ホース」の裏側を赤裸々に描き出すドキュメンタリー。
映画作品に限らず、作り手の取ってはつけて、右に行っては左への人間味あふれる暴走が滲み出る芸術は、好感が持てるというものだ。高尚な宗教の思想がモチーフとされる絵画も、ちらりと端っこをみてみれば「ぐりぐり」とサインがいじくり回されていたり。
どこか「おおっと、いけねえ」と独り言をつぶやいて絵筆をかき回す作り手のゴマカシが尻尾を「ぴょん」と出しているのを見ると、何やら作品が身近になったようで、ちょっと嬉しい。
そんな些細な楽しさ、嬉しさが作品全体からじわり、溢れ出す一本が本作である。日常の喧騒に、少し疲れた男や女。彼らはパリの片隅、静かにネオンが輝く地下の宝石箱に快楽と興奮、そして幸福を求めてやってくる。そんな大人のエロチック社交場「クレイジー・ホース」の姿を追いかけた作品。
前半から、作り手の露骨にピンクな視点が暴発している。「そう、絡んで、顔を近づけて・・・そう、ウィ」なんて演出家の熱っぽい指示が空間に緊張を呼ぶ場面でも、作り手は「尻」にしか興味がいかない。徹底して「尻」に固執してカメラで嘗め回す。老舗ヌードショーの誇り、情熱、創意工夫を描くという前置きを、見事にそっちのけにしてエロに爆走!よ、あっぱれ!である。
で、作り手ははたと気づく。「おおっと、いけねえ!これじゃあ、ただのエロおじいちゃんの道楽といわれちまうぜ」さあ、作り手の暴走が始まる。後半から、突如として減少する「尻」舐めカメラ。クラブ関係者を唐突に俯瞰する視点。演出家の熱き思いを、これまた熱く拾うマイク。学術的な価値を「えいや」とねじ込もうとする意図が見え見えである。急にどうした!?
で、作り手はまた気づく。「いけねえ!これじゃあ、ただのおじいちゃんの
文科省推薦映画になっちまう。面白くないぜ」と、いう事で最後のオーディションカットである。それまでの声高なヌードショー論とは趣の異なる作り手の遊び心に委ねた人間臭い一幕。
もう、どうしたら良いのか分からない暴走が世界に満ちる、不可思議なつぎはぎ感が2時間を支配する奇作そのものである。いやいや、楽しい。いやいや、面白い。芸術は、こうでなくてはワクワクできないというものである。
学術的に高い価値がある作品では、無い。ただ、ここまで作り手の欲望と理性をかき回す混沌とした娯楽の殿堂・・・「クレイジー・ホース」への興味がじわじわ満ちていく、幸せな一本である事は確かだ。