劇場公開日 2012年6月30日

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「カートの中身は何か?」きっと ここが帰る場所 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0カートの中身は何か?

2012年7月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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シャイアンが住む閑静な住宅街のすぐ横に、大きなスタジアムの屋根が見える。コンサートも開催されるであろうスタジアムと、今はまったく縁のない生活を送るシャイアンとのコントラストが、ロックを捨てた謎と寂しさを垣間見せる。

引きこもりの元スーパースターだが、決して暗くはない。広大な邸宅に妻と住み、その妻にハッパを掛けられながら送る日々を本人は嫌がってはいない。顔にはシワが増え、ビジュアル的には衰えてきたが、生活は荒んでいないのが救いになっている。変な目で見る主婦には悪戯で仕返しをし、音楽業界にも出入りがあり、株でも大儲けしている。

そんなシャイアンがもっとも苦手とするのが、父と飛行機。父親とは30年ものあいだ疎遠になっていて、そこに危篤の知らせが舞い込む。
それでも飛行機を拒み、船でアイルランドからニューヨークに渡る。
いかなるときもマイペースで、子供のような判断しかしないシャイアンが描かれる。

その父親の死後、生前に執念を燃やしていた事柄について知ることとなり、その件に決着をつける意を決したシャイアンが旅に出るというのが物語の発端となる。情報を手繰りながらアメリカを横断していくロードムービーだ。

本題に入る前のシャイアンはいつもショッピングカートを、本題に入ってからも作りのがっちりしたキャリーケースをガラゴロと引きずりながら歩く。
カートの中身は、シャイアンの重い過去なのだろうか?
人生の足枷を少しでも軽くするために、車輪の付いたカートを引いているのかも知れない。
ときどき唇に触れる前髪をフッと吹きつける仕草は、虚飾された自分を振り払おうとしているように見える。

ブルーの瞳が寂しそうだったシャイアンが旅から得るものは何かは、ここでは触れずにおく。
還ってきたシャイアンを見たら、妻のジェーンは喜ぶことだろう。ジェーンは、ずっと彼のことを叱咤激励して守ってきたのだ。
ショーン・ペンも巧いが、フランシス・マクドーマンドが逞しくも愛らしい妻を好演している。

時折、はにかむような「ふっ」という笑いをもらすシャイアン。ラストの「ふっ」は、同じくはにかんではいても、どこか誇らしげだ。もちろん、カートを引いてはいない。

マスター@だんだん