「甘い甘い砂糖菓子の中にくるまれた、かなり苦い薬」きっと ここが帰る場所 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
甘い甘い砂糖菓子の中にくるまれた、かなり苦い薬
ナチスによるホロコーストと、ロードムービーを通じた父と子のユーモラスかつヒューマンな和解物語を同じ映画で取り扱うなどという奇抜な芸当は、本作で初めて見た。
ホロコーストはユーモアなどと同居させてはいけない、という思い込みが当方にあったせいか、初めは非常に奇異に感じたものである。
例えばユダヤ人社会でこれを肯定的に受け入れたかどうか、何とも疑問に感じる。制作費2,500万ユーロに対し、興行収入1,200万ドルというのだから赤字もいいところで、興行的には失敗作である。恐らく「早すぎた野心作」というのが世界的な評価ではなかろうか。
その「野心」とは、戦後66年を経た2011年にもなり、いつまでもホロコーストを激しく追及するイスラエル、ユダヤ社会に対する穏やかな異議である。
もちろんナチスやホロコーストを肯定はしないまでも、永久に追及するのはおかしいのではないか。会話がズレまくるオフビートの笑いや、旅の途中で出会う奇抜な人々、ナチス親衛隊の家族たちの人間的な言動が醸し出すユーモラスな雰囲気の中から、監督たちのそうしたスタンスが浮かび上がってくる。
甘い甘い砂糖菓子の中にくるまれた、かなり苦い薬…それが本作である。類似の作品が多数制作されるようになれば、ホロコーストに対する硬直的で厳しい歴史観も、いくらか和らぐのではないか。そのように歴史観を動かしていく意図、野心が本作の核心にある。しかし、製作から12年近く経った現在だが、小生には違和感が残らざるを得なかったのも事実なのである。
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