「メランコリア」メランコリア なつさんの映画レビュー(感想・評価)
メランコリア
ラース・フォン・トリヤーーーーーー!
私にとって彼は鬱映画制作監督としてNo.1。
もう、OPからすでに鬱な映像。
落ちていく鳥、ゆっくりと動く青い星、灰色の紐に絡まり前へ進めない花嫁、子供を抱え逃げる母親の足跡、ダガーで木を削る焦点、鈴蘭のブーケを抱いて目を閉じる花嫁。
これらがゆっくりとしっとりと流れていく。
これらは後々回収される画像なのだが、とにかく陰鬱なのだ。
「ジャスティン」
カーブを曲がりきれない車。これから結婚式を挙げようとする2人にはそんなハプニングすら楽しい。2時間も遅れようが気にしない。気にするのはプランを立てた姉クレア。大富豪の妻で幼い息子と暮らす彼女は妹のために豪華な結婚式予定を完璧に作っていた。
しかし、ジャスティンは感謝もそこそこに1人パーティ荒らしを初めてしまう。
こっそり抜け出してカートでGO GOして星を見ながら放尿したり、甥を寝かせつけにいってそのまま眠ってしまったり。そこへクレアが「きちんとするって約束でしょ?「してるって!笑顔でいるでしょ?」
そんな彼女を笑顔でキスで許す夫。
あー、この人もうダメだ…な父と結婚を祝わない威圧的な母この2人に育てられたら曲がりそう…そして、パワハラ上司。ジャスティンの周りひどい人間が多い。
ケーキカットもボイコットしてお風呂に入る。画面にはシルバーを持った新郎の手。
初夜を迎える時も拒否しフラフラと出かけ他の男といたすしまつ。
最終的に上司には悪態をつき失業、夫は家族と帰り1日で職と夫を失う事になる。ジャスティンは母親と話をしたがるが拒否され、父親を引き止めるも去られてしまい姉のクレアはブチギレる。
その結婚式の様子はずっとホームカメラで写したようになっているのだが、そもそもパーティというものはとてもしんどい。しかも、主役は自分。そのパーティの内容はクレアが作った大掛かりなもの。こちら側から見ても食事、スピーチ、余興、ダンス、ケーキカット、バルーン飛ばし、ブーケトス、ビーンズゲームまである。これかはかなりのボリュームでキツイ。クレアがさっさとブーケを奪って投げる所からも相当彼女がキレているのがわかる。
この長い長い結婚式のジャスティンの様子でどんどん鬱になる彼女がどれだけ頑張っているのかがわかる。無理に笑顔を作り明るくがんばる事を誰にも理解されず、寄り添わない両親、妹より式の進行を優先する姉。頼りにならない新郎、パワハラ上司。灰色の毛糸で絡み取られたジャスティンは奇行に走る。逃げる様に。
ゆっくりと鬱は進行する「貴方の事が憎くてたまらない」姉は言い放つ。
「クレア」
地球に接近する「メランコリア」という星。
結婚式の反動か重度の鬱状態となったジャスティンをクレアは家に呼び寄せる。その状態のジャスティンをクレアは献身的に支える。クレアの夫のジョンの理解の無さに鬱が理解されない事があるのがイライラする。重度のジャスティンは無気力で何もできない。ケアをしながら、メランコリアに恐怖するがジョンの大丈夫の言葉で不安を蹴散らすように生活をする。少しずつ大きくなるメランコリア。
ここで、メランコリアが近づく様を望遠鏡でなく息子が作った針金で作った棒で分かるって演出が自信の身をもって近づく様を知るとか生々しくてエグいなぁ…この辺りからジャスティンが今までになかった何かを食べるシーンが鬱の良くなる兆候が見えるのも良い。
夜にそっと外に出るクレア。そこには白い月。
横には青いメランコリア。それを眺めるジャスティン。
地球と死のダンスをするその星は1度大接近をする。
チュンチュンと鳥の囀りの様な音と共に大きくなる青い星。それはあっさりと遠ざかる。
心から安堵するクレア。しかし翌日自殺したジョンを見つけ、絶望を知る。
ジャスティンは語っていた。生き物は邪悪なものなので無くなるべきもの。この世には地球以外の生き物はいない。いないからこそメランコリアで全て無くならないといけない。クレアと違ってジャスティンは受け入れていた。
それは死にたい自分を消してくれる星。自らの手ではなく消してくれる星。鬱を患ってるいる状態であの美しい星が邪悪な自分とそれを取り巻く存在全てを消してくれるのなら万々歳だろう。
クレアのテラスで3人でワインを飲みながら最後を迎えたいという提案に「第九でも流して?その計画は最悪ね!」と一蹴するジャスティン。クレアターンでも「貴方が時々憎くてたまらない」という言葉が出るのだがジャスティンにとってクレアの計画は最悪。
最後に取った計画。それは大人の諍いによったものではなく、幼い子供を安心させ希望を持たせる方法。シェルターを作る事。ジャスティンと楽しくシェルターを作りワクワクさせこれでもう安心と目を瞑らせて3人手を繋ぎ、燃え尽きるは一瞬で余韻も何も無い。
なんならOPが余韻のようだった。
この作品を観たあとから、鳥のチュンチュンという囀りを聞く度に青い星が目に浮かぶ。