劇場公開日 2012年2月17日

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メランコリア : 映画評論・批評

2012年2月7日更新

2012年2月17日よりTOHOシネマズ渋谷ほかにてロードショー

ラース・フォン・トリアーにとっての美しく素敵な終末

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ラース・フォン・トリアーはほぼ2年にわたり鬱病で療養中だったという。回復後に作ったのが、みずからセラピーだったと称する「アンチクライスト」である。それに続く新作は「メランコリア」と題する。メランコリアとは憂鬱症のことだ。

ジャスティン(キルステン・ダンスト)は結婚式をあげようとしている。だが、幸せの絶頂にあるはずなのに、彼女の心は晴れない。式に遅刻し、衝動的に抜け出し、部屋にこもって居眠りをはじめる。さしたる理由もないままに、ジャスティンは結婚も仕事も投げ出してしまうのだ。そのころ、“メランコリア”と名づけられた惑星が、着実に地球への進路を進みつつあった……。

鬱に悩まされるジャスティンにとっては何もかもが厭わしい。恋人も、上司も、この世界そのものすらもが。いっそのこと、自分とともに世界が消え去ってほしいとさえ思いはじめる。メランコリアが地球に衝突し、全生命が自分とともに消え去ると知ったとき、ジャスティンははじめて清明に澄みわたった心を手に入れる。ジャスティンには、そして同じく鬱だったトリアーにとっては、邪悪な生命が自分もろとも消え去るのは美しく素敵なことなのである。

やがて訪れる終末はたとえようもなく美しい。セント・エルモの火が輝き、ワーグナーが朗々と鳴り響く中、空は壮絶に美しく燃えあがる。理想の美しき終末を、メランコリーの監督は召喚して見せるのだ。

柳下毅一郎

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