J・エドガー : インタビュー
クリント・イーストウッド、映画製作の原動力は「自分が見えてくる」
「J・エドガー」は、クリント・イーストウッドにとって32作目の監督作品だ。俳優業のかたわら、1960年代に製作会社マルパソを立ち上げ、質の高い作品をコンスタントに手がけてきた。80歳を過ぎてもその勢いは少しも衰えることなく――出演者のアーミー・ハマーによれば、撮影の合間にジムで汗を流すほど元気だという――、新作をほぼ毎年発表している。本サイトは米バーバンクにあるワーナー本社で、イーストウッド監督に取材を敢行。FBI初代長官ジョン・エドガー・フーバーを映画の題材に選んだ理由と、精力的に創作活動を続ける原動力に迫った。(取材・文/小西未来)
――「J・エドガー」は、アメリカでおよそ50年間ものあいだ、警察組織の顔として恐れられたジョン・エドガー・フーバーの伝記映画という体裁を取っていますが、実際には謎の人物をさまざまな面から描いた人物研究ともいえる作品に仕上がっています。フーバーのどんなところにひかれたのでしょうか?
「ほとんどすべてだ。たとえば、議会でロビー活動を行って警察組織を立ち上げた手並みは見事としかいいようがない。あの若さであれだけのことをやってのけたんだからね。フーバーの特異な個性はどこから生まれたのか? 彼はいったい何者なのか? 映画を通じてこうしたことを追求するのは楽しいだろうと思ったんだ。母親や周囲にいた人の影響なのか、それとも生まれつきなのか。実際、彼は前身も含めてFBIで48年も務めた有名な人物なのに、誰もその実態を知らない。だからこそ、この映画にひかれたんだ」
――この映画を通じて結論は出ましたか?
「完璧なJ・エドガー像は、観客の解釈が加わって完成するものだ。同じ絵画をみても、その解釈がその人によって違うようにね。もし、われわれが正しい仕事をしていれば、観客はこの映画からそれぞれ自分なりの完璧な結論を見いだしてくれるはずだ。私は答えを出すのではなく、疑問を投げかける映画が好きだ。こういう映画が苦手な観客は、『ハッピーフィート2』でも見に行けばいい(笑)」
――なるほど(笑)。ディカプリオと仕事をするのは今回が初めてですが、俳優としてどのような印象を持っていましたか?
「レオは常に自分の可能性を広げようとしている俳優だ。常に難しい障害物を用意し、それを乗り越えていく。普通の俳優は、レオのようには努力しない。アクション映画でもやって、楽な生活に安住する。でも、レオはそれを拒否している。とてもスマートな選択だ。なぜなら、いまの彼の年齢ならば、オファーされる役柄の幅がとても広い。選択肢がたくさんあるうちに、自分のスキルをありったけ磨こうとしている。素晴らしいことだと思うよ」
――肉体的にもハードな映画製作を年に1本という驚異的なペースで続けている理由はなんでしょうか?
「単純に楽しいからだ。映画作りのプロセスは楽しいし、役者やスタッフと仕事をすることも楽しい。でも、一番の魅力は、キャラクターを研究することだね。人間について新しいことを学ぶことができるし、自分を深く知ることにもつながる。自分はどうしてこの人物にひかれるのか、とね。映画と向き合うことで、自分自身が見えてくる。映画作りの最大の魅力はここかもしれないね」