劇場公開日 2012年1月7日

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「力の、職人技を見よ!」哀しき獣 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5力の、職人技を見よ!

2012年8月12日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

興奮

知的

韓国サスペンス界にその名を刻む傑作「チェイサー」を手掛けたナ・ホンジン監督が、同作品にも出演したハ・ジョンウを再び迎えて描く、犯罪アクション作品。

この作り手、本当の意味で観客を物語に引きずり込む映画術をあけっぴろげに提示してくれる。「チェイサー」を映画館で鑑賞した時に、第一に感じた違和感。

「・・・進まない」

そう、冒頭から圧倒的な暴力やアクションで観客を雁字搦めにする作品が主流となっている現代韓国映画界にあって、この映画人の作品はとにかく、進まない。ゆっくり、ゆっくり、世界を回していく。

妻に逃げられた男。借金。なんだかやばそうな仕事。密入国。畳み掛けるようにノアールな要素を物語に叩きこみながら、まるで「むかしむかし・・おじいさんと・・おばあさんがのう」の如き、日本む〇し話のような穏やかな語り口が支配する。

まだか・・・まだか。観客は次第に、頭に、心に「しこり」が溜まっていく。じわり、じわり。ようやく、メインのストーリーが完遂しそうだ!そんな時、この作品は突如眠りから覚めた獣へと変貌を遂げる。

突然、暴れだす映像。「おじいさんは・・山へ芝刈りに、行ったはずが山で撃たれて、刺されて・・凄いことになっとった!」もう、む〇し話の語り手も驚きを隠せない。緩やかな語り口は、別人のように口から泡を飛ばし、目を充血させ、半狂乱の物腰で物語を引っ掻き回していく。

いきなりのジェットコースターに乗せられた乗客は、もう慌てふためくばかり。どうした、何か痛いぞ、切れてるぞ!いつの間にやら、壮絶なグロテスク空間に放り出される。不可解、意味深。でも、溜りたまった鬱憤は踊り、沸騰し、くすぶった心を揺する。止まらない快感が、頭を染める。

物語の組み立ては多少荒々しいものがあり、スリラーとしての完成度にはいささか疑問符が付くのは認めよう。しかし、金かけ手間かけ、観客の心を拉致してしまおうとする暴力的な意欲は大いに賞賛に値する。逆に言えば、これぐらい派手にかき回さないと、目が肥えた映画ファンを映画館に呼び込む事が出来ない現代ならではの難しさが見え隠れする。

溜りきった欲求不満を、見事に快楽へと昇華させてぶっ放す力の職人技が光る一本。ほぼ男しか出てこない華やかさとは無縁の作品だが、どうやったら娯楽を、娯楽たらしめるかの一つの答えを軽やかに提示してくれる一品である。

ダックス奮闘{ふんとう}