劇場公開日 2012年3月31日

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「車窓を流れる光景に男の心情を語らせた傑作」ドライヴ マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5車窓を流れる光景に男の心情を語らせた傑作

2012年4月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

知的

手書き風のフォントによるオープニング・クレジット。しかもフォントの色はピンクだ。アクション映画にピンクだ。この時点で、ハリウッド作品でありながらヨーロッパ映画の顔を持つ作品ということが分かる。
ライアン・コズリングとキャリー・マリガンをはじめとしたキャスティングも、ヨーロッパ的なムードを持つ俳優で固められている。
ただし舞台はロスアンゼルス、70年代のシェビー・ノバや最新のマスタングGTなどホットな車が逃走劇を演じる。

冒頭の強盗を逃がすシーンが素晴らしい。
強盗とは、何があっても5分は待つという契約だ。
強盗が仕事を始めると同時に、リズミックな音楽にタイムリミットの5分が刻々と迫る時計の音が重なる。スティーヴ・マックイーンの「栄光のル・マン」のスタート・シーン以来の緊張感を味わった。
ダッシュボードに取り付けた3連メーター、ラジオの野球中継、警察無線を傍受するトランシーバー、それらが渾然となって決して爆走するだけではない静なる逃走劇を完璧にフォローし、これ以上望めないほどの緊張感が充満する。
これまでのカーアクション映画にはなかったタイプの逃走シーンだ。素晴らしいとしか言いようがない。

名もなく家族もいない寡黙な“ドライバー”。爪楊枝をくわえたライアン・ゴズリングが冷静な判断力を持つ用心棒的な雰囲気で、近頃とんと見なくなった物言わず頼れる男を演じて魅せる。
彼が心を許し、初めて家族を持ったような時間を得るのが、同じフロアに住むアイリーンと、その幼い息子との交流だ。
アイリーンと二人きりで夜の街をドライブするあいだ、さして会話もないが、二人の気持ちが近づいていく様子がよく分かる。ここはキャリー・マリガンが演技面でリードした形だ。

このアイリーンの夫・スタンダードが出所してきたことから、新たな展開を迎え、いよいよ本筋に入っていく。
スタンダードの不始末からマフィアに狙われてしまったアイリーン親子を、“ドライバー”は身を呈して守る決意をする。
プラトニックな愛を貫き、愛する女性のためなら何も厭わないという男の信念は古風だが、その一途さが彼の内なるエネルギーを解き放ち、狂気とバイオレンスを炸裂させる。失うもののない男の怖さが映像を支配する。
愛する女でさえ恐れる狂気。それでも構わない。男は女を守りたかっただけなのだ。ただ、敵に回した相手が悪かっただけなのだ。

ひたすら走り回るだけのカーアクション映画は多いが、3連メーターを取り付けたダッシュボードの向こうを流れる光景に男の心情を語らせた傑作。
ニコラス・ウィンディング・レフンという監督、お初だが、ラストの影の使い方といい、その手腕にしたたかなものを感じる。

マスター@だんだん