「1人1人の力強さに(笑)。生き抜く強さが響き渡る」幕末太陽傳 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
1人1人の力強さに(笑)。生き抜く強さが響き渡る
口八丁で切り抜ける。なのに、人気者。
結構、ひどいこともやっている。地獄の沙汰も金次第とばかりに、居残りして袖の下を貰って稼ぎまくる。
こんな男、近くにいたら鼻つまみ者、誰からも見向きもされない守銭奴なんだけど…気が付けば、居残りの余計者から、皆に頼りにされる人気者になっている。そして観ている私も虜になっている。
適当者でいながら、どこか肝が据わっている、芯が通っている人物として演じられているからだろう。
そのまんま、キャバレーとかに舞台を移しても多分通用するだろう。
とにかく、どの登場人物も活き活きしている。
勤労の志士達が大根役者なのも、庶民の生活見ずに、自分達の理念で動き回っていたKY感を出したくてわざと起用?と思いたくなるほど、不思議な世界感が出来上がっている。
死の影はチラつくが、生へのバイタリティに溢れている映画。
イノさんは、死病に侵されている設定ながら、医師の言いつけを頑なに守り、たぶん、その医者にまた治療してもらうために、長崎までの旅費と治療費を必死に稼いでいるのだろう。
「首が飛んでも動いて見せまさぁ」
「俺はまだまだ生きるんでぇ!!!」
死の影にあらがう、生き延びるんだという、その心意気。
舞台は幕末。
ペリー来航に始まる、時代の変革期。「泰平の眠りを覚ます上喜撰(蒸気船) たった4はいで夜も眠れず」という狂歌が流行ったように、アメリカ・ヨーロッパによってどう変化させられるのかと、不安が押し寄せていた時代。映画に登場する勤王派も、物騒なテロを計画している。
だが、庶民は、その日をしのぐために、生きていた時代。
遊女として、手練手管を駆使して稼ぐ女たち。彼女たちが遊女となった理由は映画では語られないが、口減らし等のために売られてきた少女たちが多いと聞く。様々な理由で借金のために遊女にされそうになる娘も出てくる。
今なら悲劇の物語になりそうだ。この時代でも遊女にならぬように知恵を巡らしている。
映画が作られた時代。
GHQ主導で売春禁止法が施行される前夜と聞く。
戦争によって、稼ぎ頭を失い、稼ぐ手段を失くし、娼婦となって日々の暮らしを支えていた女性たち。
GHQの主導で、様々な変化を余儀なくされていた時代。
どちらも、時代の変化によって、自分たちの生活基盤の先が読めぬ時代。
それでも、人は今日生きるために必死に知恵を絞る。
それでも、人は自分の欲を叶えようとする。
そんな人々のしたたかさ。だまし合い。そのパワー。
映画は、監督の人生・死生観をトレースしているとか、
当時の監督と映画会社との関係を示唆しているとか
いろいろ言われている。
そんな、いろいろな人にいろいろな思念を抱かせる映画だが、ちっとも固くない。
こんな風にジャズのセッション観ているみたいなそれぞれの芸達者の掛け合いで場が高まっていく。
かと思うとシビアな生活の場が描かれるという、緩急の気持ちの良い映画、そうそうない。