劇場公開日 2011年11月12日

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「不確かな情報で恐慌に陥る社会の描写に福島の風評被害を連想しました。」コンテイジョン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0不確かな情報で恐慌に陥る社会の描写に福島の風評被害を連想しました。

2011年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 本作はハリウッド製のパンデミックへの啓発映画の色彩が強いと思います。けれどもスタッフ、キャストの充実した技量が出来栄えを水準以上に押し上げていたと感じました。 何しろ監督が「エリン・ブロコビッチ」や「トラフィック」など社会派の秀作を手がけてきたスティーブン・ソダーバーグ、出演もアカデミー賞主演女優賞のケイト・ウィンスレット、グウィネス・パルトロウを筆頭にマット・デイモン、ジュード・ロウらの豪華な布陣ですからね。
 ソダーバーグの手法は、ドキュメンタリーのように発生する事象を一歩退いた立ち位置から客観的に伝えようとします。ドラマ性は希薄になる分、描かれていく映像は、まるでそのただ中にいるかのように臨場感たっぷりに描かれます。
 本作には欠かせない医療現場のシーンではセットや用語使いなどにソダーバーグ監督の細かいこだわりを感じました。
 新型感染症SARSや鳥インフルエンザの記憶も新しい中、さらに強力な新ウイルス禍が起こったらという恐怖感をリアルに感じさせてくれます。そんなシミュレーションを映画で体験しておくほうが、パニックを未然に防ぐ一助となるのではないでしょうか。

 物語は、香港から帰国した米国ミネソタの女性が自宅で風邪に似た症状が悪化し急死するところから始まります。彼女と旅先で接触のあった人々もロンドン、東京などで帰国後、次々急死します。アトランタにある疾病予防センターが調査に着手し、医師(ウィンスレット)をミネソタへ派遣します。感染拡大の中、原因はコウモリと豚のウイルスが混ざった新種ウイルスと解明されるのです。
 ワクチン開発が次々と失敗する困難ななかで、やや後半は展開を急いだせいか、唐突にワクチンの開発に成功したような感じがしました。

 ところで本作が凡庸なパニック映画と一線を画すのは、ウイルス以上に恐ろしい、不確かな情報で恐慌に陥る社会の描写です。
 グロテスクな感染の描写は少なく、パンデミックにおびえる人々の心理を描くのに時間を割かれているのが特徴です。
 その軸となるのがフリーランスのジャーナリスト・アランの存在。彼がブログ上で発信した不確かな情報により、人々はパニック状態に陥ってしまう設定が織り込まれていきます。しかもアランは、単なる「火付け人」ではありませんでした。とある薬草がウイルスが効果的という風評を勝手に流して、投資会社と組んで一攫千金を狙うというしたたかさだったのです。そのためにアメリカ疾病予防センター(CDC)と世界保健機構(WHO)が開発したワクチンに対して不信感を煽り、ワクチン接種を拒むことさえアランは呼びかけてしまうのです。いま日本でも原発事故による風評被害が深刻ですが、アランのようなネット上でカリスマ予言者と化してゆくジャーナリストや俳優の存在が、被災地の復興を映画のように妨害していると思います。なんか共通点を見る思いでした。
 結局アランはインサイダー取引が露見して逮捕されるのですが、彼を信奉しているネットのシンパの募金活動であっという間に保釈されてしまいます。
 娑婆に戻って、取材対象の一般市民に政府を信用するなと呼びかけるアランの存在が不気味でした。そんな汚れ役をロウが好演しています。

 ネット社会ならではの新たな風評パニックに踏み込んだ点で、本作は新たな問題提起を銀幕で起こした点を評価してと思います。
 新ウイルスの発生原因として社会、経済のグローバル化を暗示するラストシーン。冒頭は感染2日目から謎解きが始まり、ラストで感染初日の原因がどこからはじまったのかネタバレに繋がる構成は、より強く衝撃を感じました。僅かな偶然の連鎖から大感染が始まるという点で、公衆衛生の必要性が、見る者の心にしっかりと刻まれることでしょう。

 但し社会派クールな描写というルックの割には、ウィルスが開発される過程や、疾病予防センタのエリス・チーヴァー博士が自分用のウィルスをオフィスの清掃スタッフの子供に分けてあげるシーンなど、結構グッとくるヒューマンなシークエンスも織り込まれていてよかったです。

流山の小地蔵