「“最悪の日”に、さよならを」ものすごくうるさくて、ありえないほど近い カバンさんの映画レビュー(感想・評価)
“最悪の日”に、さよならを
この映画のタイトルが意味するもの。
それは、主人公・オスカーの五感に飛び込んでくる映像や音ではないかと思いました。
感性がとても特殊なオスカーには、様々な物事が何でもストレートに吸収されていく。それが、不器用だけど豊かな発想があるという個性を築いています。
でも、その個性によって“最悪の日”から、彼自身は内なる攻撃を受けます。
2001.9.11 朝━━
それ以降、雑踏や喧騒が目を、耳を、肌を容赦なく突き刺し、情緒を掻き乱す。オスカーはそれらを怖がるようになり、“うるさくて、近い”と感じるようになったのではないでしょうか。
自分のことを誰よりも理解してくれたパパ。怖いものに押し潰されそうになっても、パパは支えてくれた。
でも、そんなパパは“最悪の日”以降、もういない……。
父親の死から心を閉ざしていたオスカーは、父親の部屋で何かの鍵を見つけます。
この鍵穴の向こうに、パパからの最後のメッセージがある…!
そう信じて、手掛かりであろう“ブラック”をもとに、NY中のブラックさんを訪ね歩き、交流します。
途中から、祖母宅の間借り人のおじいさんも協力します。一切喋れず、すべて筆談で関わりますが、その表情は言葉以上の力を感じました。
涙が溢れてくるシーンは、いくつかあります。
9.11以降、生ける屍のように放心する母親に、父親の死の悲しみをぶつけ、冷たく当たるオスカー。
鍵穴探しに難航し、堰を切ったような早口で、間借り人に感情をぶちまけるオスカー。
そして、鍵の真実を知った時のオスカーの姿は、とても辛くていたたまれなかったです。
でも、母親はそんな息子を優しく受け止めました。何も知らないようでも実は、オスカーをちゃんと見守っていたと気付いた時は、温かい気持ちになりました。
この映画には、鍵の他にも重要なアイテムがあったと思います。オスカーがお守りのように持っているタンバリンです。
情緒を安定させるための必需品で、大部分で断続的にシャランシャランと鳴り響いていました。
でも、最後には鳴らなくなりました。
きっと、“うるさくて、近い”から克服できたことを示しているのでしょう。
また、その努力の結晶が、こじつけ感アリアリですが、父親が出した謎である、“第6行政区”の答えではないでしょうか。
オスカーが“最悪の日”に手を振って、さよならと言えるまでの、長く不思議な旅でした。