「この主人公の少年に、大人として共感が持てるかどうか。」ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 梅薫庵さんの映画レビュー(感想・評価)
この主人公の少年に、大人として共感が持てるかどうか。
911で父親(トム・ハンクス)を亡くしたオスカー。彼は父親がのこした遺品の中から鍵を見つける。何処の鍵だか、何の鍵だが、わからない。けれど永遠に父親と繋がっていたいオスカーは、その鍵に会う穴を見つけるため、ニューヨーク中を探し廻る。
パニック障害を持つオスカーは、無償の愛を注いでくれた父親を亡くして、光の無い世界に突き落とされた。その突然の死を受け入れられないし、その感情を何処に持っていったらいいか図らない。当然暗闇の世界で恐怖心にも満ちみちている。それで、周囲の大人たちにその抑えきれない感情をぶつけてしまう。母親(サンドラ・ブロック)に汚い言葉で罵り、ベットの下や戸棚の中に自分の世界を作って引きこもり、自傷行為をしてしまう。祖母の部屋に間借りしている老人(マックス・フォン・シドー)には、父親の最後の留守電を無理矢理聴かせる。
母親との口論の場面は非情な緊迫感があり、観ていて非常に辛くなる。なぜなら、母親は現実に直面している。夫を亡くしての悲しみ、喪失感。大人だから必死に耐えている。そして決して子供にはその姿を悟られまいとしている。しかし、のちに彼女は息子の「冒険」を知り、それをサポートすることで自分自身も癒されていく。
また老人は過去の辛い体験に、自ら言葉を失うことでその気持に対して封印をしてしまっている。けれども、彼はオスカーと共に鍵を捜すという「冒険」をしているうちに、次第にオスカーの純粋さに惹かれもしていく。
普通の大人は時として、子供の純粋さを自分たちにはもう持ち得ないことへの嫉妬と共に、その美しさを賞賛する。ただし、ここでのオスカーの気持ちはそれに当たるかどうかは、人それぞれだろう。むしろ、マックス・フォン・シドーの演じた老人やジェフリー・ライトが演じるビジネスマンのような、過去の後悔に悩みつづけている人たちの姿のなかに、心の重荷をずっと抱えながら生きて行くこと対して、思わず頷いてしまう自分がいた。このように、彼を取り囲む人々それぞれが持つ悲しみ、苦しみに共感する観客が多いのではないか。
911の悲劇を、11年かかってやっと、それに巻き込まれた人々の感情を表現するのに十分な作品といえる。ただし精神的に酷な表現描写もあり、当事者でない人間であっても辛くなる場面が多々ある。これの是非は、暫く経ち、この作品を離れてみてからでないと、何とも言えない。
2月18日 TOHOシネマズ六本木ヒルズ