「対峙して受容する。」ものすごくうるさくて、ありえないほど近い ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
対峙して受容する。
試写会にて。
監督がS・ダルドリーということでかなり期待してしまった。
9.11で大好きな父親を失ってしまった少年の心の変遷を、
繊細すぎるほどの描写で丹念に描いた作品。
T・ハンクスとS・ブロックというコメディなら大成功役者を
夫婦役に抜擢しながら、彼らの見せ場は皆無というくらい^^;
少年役のT・ホーン君のまさに独壇場的な場面がほとんどだ。
この演技未経験?な男の子の天才的小生意気演技は凄い。
クイズ番組優勝経験で抜擢されたという頭の良さが伺える。
しかし冒頭から知的な会話ばかりが埋め尽くすテンポの速さ、
心温まる父子関係を想像していた自分は肩透かしを食らった。
えー。なんかT・ハンクスらしくないな。
S・ブロックにしても見せ場があるのは最後の最後くらいで、
この息子がなぜこうなったのか(元々の性格云々においても)
まったく見えてこない。夫婦の葛藤も。家族の背景も。
突如父と子の「第6区」探しが始まり、唐突に「あの日」が訪れる。
向かいに住む祖母と謎の間借り人、少年を支える人間は多い。
が、この少年にはトラウマともいえる「あの日」の記憶がある。
それが何なのかを探し当てることが
少年にとっては父親との「穴」を埋めるカギであり、
観客にとってはこのクソ長いタイトル(汗)を解くカギになる。
ビルから落下する父親の映像(確実ではないが)を映し出す
シーンはこの上なく辛い。
一家を突然襲った不幸は、幸せだった少年の心を痛めつける。
極端に神経過敏で他人との距離を巧くとれないこの少年の
唯一の味方で理解者がこの父親だったのだろう。
その父親亡きあと、彼に同じような温もりをもたらす人物は、
ある程度の謎に包まれているが、この作品の謎は何といっても
このタイトルなんじゃないかと私は思う。
原作を知らないので作者の意向は分からないが、
私にとってのタイトル通りの存在といえば「親」である。
どうふり払おうとふり払えない。遠く離れようと心は離れない。
(声を発しようとしまいと。シドーが最高に巧い)
常にうるさくてありえないほど近くにあるのは、その存在と記憶だ。
死者の記憶は消せるものではない。
というより、消してしまうものではない。
自分が受け入れられる時期がくるまで苦しみは続くと思うが、
自分にとって大切な存在は記憶になっても大切な存在なのである。
哀しみを心強さに置き換えて、いつも自分を見守ってくれている
心の中の存在、ものすごくうるさくて、ありえないほど近い存在で
あり続けるべきだと私は思う。
あんなに苦しんだ少年が初めて安堵の表情を示すラストの場面で
彼は誰にそれを見せたか。
いちばん大切なひとって、ちゃんと傍にいるんだよ。。。
(傷みを知れば成長もできる。頑張れ少年!お父さん見守ってるから)