「故郷の記憶は家族の記憶」ファミリー・ツリー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
故郷の記憶は家族の記憶
鑑賞から一月ほど経ってしまいましたがひとつ。
エンタメ作品のレビューは割かし楽に書けるのだけど、
ドラマ作品の場合はじっくり考える時間が無いと文章にまとめるのが難儀ですね〜。僕だけか。
ま、それはさておき。
妻に浮気された夫の哀愁漂うバタバタ走り、
母の浮気調査で父との絆を深めてゆく長女、
言動はマセててもやっぱり現実を理解し切れない次女、
デリカシーゼロだが(笑)根は善人の娘の彼氏……
ハタから見たらちょっぴり情けなくて、ヘンで、笑えるけど、
哀しみを共有し、人生の大きな変化に適応しようと必死に頑張る家族3人(+α)。
彼等を優しく包むハワイの緩やかな空気が心地良い。
原題『Descendants』とは“末裔”“伝来物”という意味らしい。
主人公が所有するハワイの土地や、家族の事を指していたのかな。
終盤で土地を売らない事を決めた主人公だが、家族の絆を再認識する内、
彼等と過ごした想い出の地を壊されたくないという気持ちに変わっていったんだろう。
ただ、主人公がその考えに至る経緯が説明不足かなぁ。そこだけが本作への不満点。
なので鑑賞直後は、
「もっと家族の記憶にまつわるアイテムが登場すれば良かったのに」などと考えていたのだが——
(家族の想い出の木とか出てくるのかとタイトルから予想していた)
観て1ヶ月経った今思い返すと、それは随分野暮な考えだったと感じる。
家族の記憶が宿っていたのは具体的なアイテムでは無かった。
人の情けなさもみっともなさもゆったり受け入れてくれるハワイの優しい空気、
この映画が描いてきた土地の空気そのものに、家族の記憶は宿っている。
アイスを頬張りながら皆でテレビを眺めたソファ。
波上を滑るサーファーを一緒にぼんやり眺めた砂浜。
月日をかけて、家族の記憶はそんな些細な場所に宿っていって、
やがてそれらの場所をぐるりと包む故郷それ自体が、家族の記憶になるのかも知れない。
先祖が故郷を守り継いできた理由だって、ひとえにその記憶を守りたかっただけなのかも。
僕の職場の先輩が、少し寂しげに語った言葉をふっと思い出した。
「自分の生まれ故郷って呼べる場所がある人は幸せですよ。
私は小さな頃からあちこち引っ越してたんで、故郷と呼べる故郷が無い。」
故郷と呼べる場所を持つ人は幸せ。幸せな記憶が根付く土壌があるから。
……たまには故郷と御先祖に感謝しなくちゃね。
<2012/6/3鑑賞>