「出演者皆それぞれ素晴らしい!昔似た伊映画、「汚れなき悪戯」を想い起こす秀作」北のカナリアたち Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
出演者皆それぞれ素晴らしい!昔似た伊映画、「汚れなき悪戯」を想い起こす秀作
大ヒットし絶賛された、湊かなえの『告白』を私は全否定していた。何故なら復讐とは言え、人を殺してしまう行為を正当化しようとするストーリーであり、しかも主人公は教師。そして幼い教え子である生徒に復讐をする事を正当化するかの様な小説の設定が、自分の感性には絶対に受け入れられないものだった。
今度の作品もやはり、教師と生徒の関係を通して描き出される、人間の深層に潜む闇の部分をあぶり出すのだが、こちらは、あくまでも、生き抜くと言う事がテーマになっている点で、今回は高得点を付けたい。しかもこの映画のラストは、理由はどうであれ、自分の犯した罪を償い、辛くても最後には再生するだろう事が描かれている希望の有る作品に仕上がっている点が多いに好感が持てる作品に値すると思う。
人生では、自分が行った日々の努力の結果が報いられずに、人生を終わらせなければならない事が有る。と言うより、人生の殆んどは満足出来る、結果を見届けた後に終わらせる事が出来る人の人生の方が、むしろ稀なケースだ。
それでも人は今日も生き、今日行ったその行動の収穫を自分自身、刈り取る事が出来ない事をたとえ知っていたとしても、それでも尚、今日行わなければならない事をやり遂げる努力をし続ける事こそが、人間に課された命を生きる事の意味だろう。正直この作品は全く期待せずに観たので、本作は予想外に良く、驚いた!
只、難点を言わせて貰うなら、はる先生を演じている吉永小百合の役処は、何故か今回説明セリフばかりで不自然な場面が多々あり、奇異に感じて、話しに集中出来難かった。
20年振りに分校の教え子一人一人の処へ、はるが訊ね歩いて行き、話しを聞く為、物語のナビゲーター役と言う設定でも有るが、過去から今日まで抱え込んで来た、一人一人の生徒達のエピソードとはる自身の想いを、はるが解説するようなセリフにする必要性は全く必要ない気がして残念でならなかった。
これでは、分校の生徒達があれ程までに、慕い大切に思っていた、はる先生の良さが、損なわれてしまう気がして、そのセリフばかりが気になってしまうのだ。
吉永小百合さんと言うスターは、誰を演じていようとも、吉永小百合本人で、相変わらずなのだが、しかし今回、余りにもセリフが酷いので、小百合さんが、このセリフを良くOKしたものだと信じられなかったし、演じ難かったのではなかろうか?
分校の生徒を演じた現在の6名は皆それぞれ、素晴らしいし、好感が持てる、良い芝居だった。
夏の美しい、自然と真冬の豪雪が、人間の生きる人生そのものを描き出しているようで、心が洗われるような、美しさを感じた。人は、自然の中で活かされ生きているのと同様に、人は他人によって活かされ、互いに助けられて、日々を生きている。
久し振りに、良い邦画に出会った思いがした。そして川井郁子の奏でるヴァイオリンの音が、より一層この映画に深みを添えてくれていた。これは今年の邦画の絶品だ!