劇場公開日 2011年12月17日

  • 予告編を見る

「広々とした青空の下で起きていたこと、そして今もなお・・・」無言歌 ショコワイさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0広々とした青空の下で起きていたこと、そして今もなお・・・

2021年9月22日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

1 建国間もない中国において、僻地の収容所に送られた人々の姿と人間の尊厳を描くドキュメンタリードラマ。

2 政府の巧妙な誘いに乗り意見具申した所、反動分子とされた人々。多くは知識人層。建国を祝い、国をより良くする気持ちがあだとなり収容所に送られる。
 そこは、土中の横穴式塹壕からなる死の施設。劣悪な環境と食糧事情から、誰もが病気や飢餓で衰弱していく。他人の吐しゃ物を食べる者、枯れ草から実を取る者、墓荒らしや人肉喰い。誇りや尊厳は薄れていく。死ねば持ってきた布団に包まれ、砂漠の傍らで墓碑銘の無い土饅頭とされる。何処に誰が埋まっているかはわからない。

3  そんな中、夫に面会に来た一人の女性の登場により、映画の様相が変わる。そして、夫を想うこの女性の気持ちの強さが、ある男に勇気と人間性を取り戻させ、男は死地からの脱出を試み、夜半に足を踏み出す。

4  劇映画ではあるが、余計な演出や音楽を排し、淡々と人物描写に徹している。セリフやライティングは少なく、自然音や生活音が取り込まれ、野外撮影では空を広く写し撮り、記録映画の雰囲気を創り出していた。

5  収容所から脱走した男は、恐らく無事逃げ切り、そのことで収容所の実態が明るみとなり本作に繋がった。この収容所は、1960年の頃のことであり、別の映画「馬三家からの手紙」では、2000年代の収容所の存在を明らかにした。また、中国では今だに、政府にとって不都合な真実を知る人間が突然姿を消すことが平然と起きている。時代や体制が変わっても彼の国の抑圧体質は何も変わっていない。

ショコワイ