「“高倉健”という永き俳優人生の巡礼の最終楽章とも云える境地」あなたへ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
“高倉健”という永き俳優人生の巡礼の最終楽章とも云える境地
日本横断がメインとは云え、出逢いはとてつもなく多い。
殿や大滝秀治、石倉三郎etc.長年共演したベテランから、草なぎ剛、佐藤浩市etc.現在の邦画の主力株、はたまた、三浦貴大、綾瀬はるかetc.これから更に飛躍を期待される若手までヴァラエティに富んだ触れ合いである。
日本狭しと数多くの名優達と織り成す旅情記は、物語の範疇を越え、高倉健そのものの俳優人生の最終楽章を迎え入れようとする温もりにも感じた。
長い間映画史を牽引し続けてきた大スター・高倉健が今の邦画界に向けて巡礼する旅の締め括りとも云えよう。
故に主人公の口癖である「ありがとう」が言葉以上に重みを感ずる。
同時に
「これからの日本の映画を宜しく」というメッセージも帯びているからだ。
だとしたら、冨司純子や小林稔侍にも出逢って言葉を交わして欲しかったが、それではあまりにも贅沢過ぎる巡礼なのかもしれない。
ストーリーそのものの評価は〜ってぇっと…
ゴージャスな割りには無難な落語の人情噺をノンビリ聴いたような心持ち。
退屈はしないけど、感動もない。
談志師匠的に例えたら、
「オレの芝浜じゃなく、よりにもよって圓楽の芝浜を聴きに行きやがるようなものだ」
ってぇとこだろう。
(圓楽党のみなさんすいません)
故に同じ健さんの旅情モノの『網走番外地』での手に汗握るスリルも無ければ、『幸せの黄色いハンカチ』での怒涛の感動もない。
「人には優しくせなぁ〜あかんなぁ〜」
ってぇ了見がホノボノと通り過ぎていくだけである。
まあ、そういう癒やしにも似た後味やからこそ、眠れずに最後まで見届けられたんやとも思う。
また、元教師の殿やイカめし売りの佐藤浩市etc.裏に潜む人物像が見え隠れする描写力も効果的。
逢う人逢う人みなお人好しばっかしで旅自体は結構スムーズな中、一癖有る彼らの存在感が穏和な展開を救っている。
私はってぇっと、
孤高のキャラはそのままだが、不器用なイメージとは裏腹に、車内をオーダーメイドで改装したり、デジカメやケイタイetc.の機器を使いこなす姿を観て、
「不器用ですから…って、健さんおもいっきし器用やないか」
とツッコミたくなるギャップが興味深かった。
では最後に短歌を一首
『遺された 風鈴に聴く 旅の唄 荷を越えて鳩 海は流るる』
by全竜