「規格外の熱量で欧州の官製史をも吹き飛ばした、映画史に燦然と輝く伝説の映画!」アンダーグラウンド(1995) コタツみかんさんの映画レビュー(感想・評価)
規格外の熱量で欧州の官製史をも吹き飛ばした、映画史に燦然と輝く伝説の映画!
なんやこれ!ものすごいものを観てしまった!と20年前の自分は驚愕したけれど、当時の驚きに勝る映画に私は未だに出会えていない。それほどに本作は破壊的に規格外であり、ストーリーから登場人物、音楽、映像に至るまですべてが熱量にあふれ、ぶっ飛んでいる。
ただぶっ飛んでいるだけならキワモノ映画として一蹴されるだけだが、主題としているのがナチス・ドイツの侵攻に抵抗する旧ユーゴの破天荒な2人のパルチザンである。祖国を守るためなら盗みでも殺しでも何でもする、それでいて女性に目がない、日本流に言えばルパン三世のような人間臭い一味の冒険活劇のようなのだが、もはや何が善で何が悪なのか分らないまま終戦・冷戦時代を経て、旧ユーゴ紛争(内戦)で一つの国が崩壊するまでの欺瞞に満ちた50年が滑稽かつ皮肉たっぷりに描かれるのだ。
そこでは連合軍も国連保護軍も、すべてが同じ穴のムジナである。私たちが知っている世界史ですら、この映画にかかれば所詮は嘘まみれの滑稽話にすぎず、戦後民主主義が植え付けた善と悪の図式はズタズタに切り裂かれる。
そして、戦後も地下で武器作りに励み、ナチスと戦い続けていると思い込まされていたパルチザンたちがようやく地上に出て目にしたものは、同じ国の仲間同士が殺戮しあうユーゴ紛争だった…。
もはや正義などどこにもありはしない。その計り知れない絶望の中で、人は泣き笑いするしかない、踊り狂うほかないのだということに気づいた時、この映画の冒頭から通底する「底抜けの明るさ」にようやく思いが至るのだ。
昔、ある所に国があった―。
ラストシーンもまた底抜けに明るく、底抜けに悲しい。
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