「美しい恐怖」ベニスに死す s_eyesさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい恐怖
悪く言えば
美少年に惚れこんでしまったおじいちゃんが130分間もじもじ彼を追いかけまわして挙げ句死んでしまうという色んな意味ですごい映画。
今の時代(じゃなくても?)に見ようものなら、通報されるんじゃないかとか、少年に毛嫌いされるんじゃないかとか、少年の母上に嫌われるんじゃないかとか、イロイロ考えてしまう。
だがこの映画でビックリなのが、以上のような事がないどころが、少年とおじいちゃんが会話をする事すらない。セリフも少なく、ただベニスで過ごすタージヒ少年の家族と主人公が淡々と写されていく。
追いかける過程の中で何度も何度も死の影がちらつく。一見、不自然なほどに話の中に伝染病の話題が出てくる。後半だんだんと背筋にくるような印象が強くなってくる。知らず知らずの間に主人公は病にかかっている。そして題の通り、ベニスで死んでしまう事に。
少年は微笑みかける。
タージヒ少年の美しさはもうそれはそれははんぱじゃない。妖怪じゃないかと思ってしまうほど。主人公は一喜一憂しながら少年を追いかける。この恋というのがまた。同性愛的でない。相手が少年なのと、妖怪かと思うほどに美しいからなおさらそう思う。女でないからその感情に性的な感じが漂わず(あくまで私の意見だが)とても神聖な領域の話にみえてくる。実際にタージヒ少年は天使とか悪魔のたぐいにも見えてしまった。彼の微笑みが主人公を死へ導いた。老いという苦しみを与えた。考えるほど奥が深く、深く深く色んな意味が詰まっている映画なんだろうと思った。
印象的だったシーン。
主人公がベニスに留まる事を決め、ボートにのり、笑顔が満開!もらい笑いしてしまった。結局苦しい死を迎えるわけだけど、死ぬ前にこんなに本気の恋が出来た事はとても幸せだったのかもしれない。