「砂時計」ベニスに死す Second Onionさんの映画レビュー(感想・評価)
砂時計
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マーラーの名曲が響く。対比が美しい。
特に最後のシーン。海と陸。黒と白。直立と座位。若さと老い。生と死。いくら努力しようとも決して到達し得ない美しさ。その美は存在そのものが尊い。砂時計はひっくり返した瞬間からゆっくりとしかし確実に落ちていく。生から死へと。砂が減っているのに気づくのは砂がほとんど落ちてからだと言う。自分の力では到達できない美しさを生命という砂をすり減らしながらみた彼。ベニスでの療養のはずが逆に心身を痛ませる結果になった。砂時計の砂は上にはいかない。それは、美を追求する彼がみたものを忘れることができないように。彼もまた椅子から落ちた。広い砂浜へと。
彼は美を追い求め、その中に沈んでいった。彼がかつて愛していた子の死は彼をより観念的な海に身を沈めさせたのかもしれない。現実の悲壮は現実で癒すか、現実とは遠く離れた場所に訪れることでしか癒えないからだ。後者をとった彼はベニスに死す。優美な化身が海の中で踊るのを目にしながら。
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