劇場公開日 2011年10月22日

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カメリア : インタビュー

2011年10月17日更新
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吉高由里子&行定勲監督、釜山に“とけ込んで”見えたもの

舞台は韓国・釜山、テーマは愛──オムニバス映画「カメリア」は、いまや東のカンヌと言われるほどに急成長を遂げつつある釜山国際映画祭のプロジェクトのひとつとして始動し、映画祭と縁のあるタイのウィシット・サーサナティアン、日本の行定勲、韓国のチャン・ジュナン、3人の映画監督がそれぞれの釜山をスクリーンに描き出した新しい試みの映画だ。行定監督の「Kamome」のヒロインに選ばれたのは、「蛇にピアス」「GANTZ」シリーズなどを代表作に持つ注目の若手女優、吉高由里子。若手とはいえ、すでに20本近くの映画に出演している“銀幕女優”が、行定監督の手によって、これまで見たことのない透明感ある美しさを引き出されることになった。(取材・文/新谷里映、写真/堀弥生)

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「たしかに、透明感ありましたよね。(撮影した映像を)見返してみて、こんなに色が透き通っていたかなって(笑)。僕のなかでの『Kamome』のテーマは、吉高さんの演じるカモメという少女が韓国の地をさまようというものだったんです。なので、撮影前に彼女に伝えたのは、だんだんと熱を帯びてくる感じ、体温が通ってくる感じということだけ。あまり装飾的なものを加えたくはなかったんですよね」と語るように、物語は至極シンプル。映画の撮影で釜山にやってきた撮影監督のヨンス(ソル・ギョング)が、裸足の少女カモメと出会い、2人で夜の釜山を歩き回るというもの。「自由に映画を作っていいよと言われたときくらい、説明過多で理論武装した映画ではないものを作ってみたかったんです」というのが行定監督の本音であり、描きたいものだった。そして、ふだんはナーバスな気持ちで映画を撮ることが多いという行定監督を心地よく解放させたのは、もちろん主演のソル・ギョングと吉高由里子の存在。「彼らを2ショットで撮っていれば、この映画は成立する」と、力強いパワーを感じたのだという。

吉高にとっての挑戦は、言葉の通じない初めての異国での撮影、氷点下2度の釜山の夜を裸足で歩くなど、決して優しいものではなかった。特に真夜中の海辺での撮影は、行定監督ですら「早く撮らないと吉高が死ぬな……と思ったけれど、結局朝まで撮影をしました(苦笑)」というほど、体力的にも精神的にも過酷ではあったが、「冷えきった彼女を撮影スタッフがさまざまな方法で温めようとしていたんです。そんな(支えたくなるような)吉高の人間性も映画に映し出したかったんですよね」と明かす。吉高の人間性が、透明感を生み出したとも言えるだろう。

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一方、吉高自身は「抵抗することはあきらめました(笑)」と、いたずらっぽくほほ笑みながらも、たくましい言葉を口にする。「何で何度もやるのかっていちいち疑問に思っていたら、殴り合いのケンカになってしまうし、1回1回リアクションしていたら身がもたない。空気感が変わってしまうなと思ったので、抵抗することはやめたんです。まな板の鯉状態でしたね(笑)。でも、それだけ身を委ねられる監督だということでもあるんです。休もうとしない、箸休めを破棄するような、そんな行定監督の姿が印象的でした」

なぜ、「Kamome」のヒロインが吉高由里子だったのか──という問いには「この女優さんを撮ってみたい! と、気になる女優さんは少ないんです。けれど、吉高さんの出演している作品をいくつか見たときに温度差を感じた。作品ごとに違う顔で、違う温度があった。それがなんだかいいなあと。彼女は、ある種エキセントリックな女優に見えたりするけれど、それを望まれているということはヒット女優、有名女優になるということでもあって。ただ、今回のカモメという役は、そうなる前の女優じゃないと演じられない役だと思ったんですよね。スケジュール的に難しかったのに引き受けてくれて感謝しています」と、愛を込めた回答。隣でほめちぎられた当の本人は、「そんなふうに思っていてくれたということを知るだけでうれしいのに、取材のたびに何度も隣で話を聞くのはたまらなく恥ずかしいんですよね(苦笑)」。

また、起承転結がはっきりと描かれるような、ありきたりの物語にはしたくないと考えた行定監督は「Kamome」のストーリーを最低限の物語で組み立て、情緒を描くことに重きを置いたと明かす。「日本には、道行(みちゆき)という情緒がありますよね。この作品は、死を選ぶときに誰と歩くかというだけの話なんです。お話ではあるけれど、主演女優と主演俳優が現実のなかに介在していないとおかしいとも思っていて。実際、ソル・ギョングと吉高由里子は、本当に寄り添って歩いているように見えたんです。それは、吉高由里子の言葉を通り越したコミュニケーション力と、ソル・ギョングの吉高由里子を知りたいという衝動があったからこそ見えたものでもある。ソル・ギョングが凄い俳優だと思ったのは、彼はいろいろなものが鏡だと思っていること。自分自身が吉高のリアクションを見ていれば、それが自然と自分にはね返り、自分が映し出される。そういうことを考えられる俳優を僕はあまり会ったことがなかったんですよね」

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吉高もソルの不思議な魅力を感じたという。「お芝居で接しているはずなのに、カモメとしてだけでなく、吉高由里子としても引っぱられている気がしたんですよね。演じるというよりも動かされる、持って行かれるような感覚でした。とにかく、コミュニケーション能力がすごいんです。日本語は上手だし、分かりやすく話をしてくれるし、笑わせてくれたりもする。一緒にいて安心できる、とてもあったかい人。国籍の違う方と一緒に歩いたり、いろいろなことを話したりすることは初めての経験だったけれど、知らない人だからこそ話せることもあって。あの寒いなか、ストーブを囲みながらジリジリと歩み寄っていく……互いの心の窓を見せ合う時間は早かったですね」

何の隔たりもなく自然と気持ちが近づいていった2人の俳優は、釜山の街にとけ込んでいった。そして、行定監督は「僕自身、この映画を撮ったら釜山の印象は絶対に変わるだろうと思っていた」と感じたように、「韓国に行ったことのある人、韓国映画やドラマファンであっても、見たことのない韓国を目にするはず」と、釜山の街の魅力を語る。それは、静と動、光と闇の美しさ──。

「生命力のある街でありながらも、釜山にはひっそりとした夜の陰影がある。街角にポンと光が落ちていてその奥は闇だけれど、決して怖い闇ではなく、奥行きのある闇。この先に行ってみたいと思うような場所がたくさんあるんです。その陰影を感じてもらうためにも、映画館のなかの暗闇のなかで見てほしいんですよね。観光でいく海岸や市場も登場するけれど、その先の路地に迷い込んでみると、懐かしい記憶のなかに取り込まれるような、そんな釜山が撮れたんじゃないかなと」。

吉高も、「とても霧の似合う街。人の息で温め合うような街。それは現場で私がキャスト&スタッフに温めてもらったから感じることなのかもしれないけれど、あの釜山の景色を見たのは自分だよな……と思うような、幻想的で記憶のような街でした」と続ける。「Kamome」で描かれるその記憶は、きっと想像以上に美しい。

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