「命を懸けた闘い。」ヘルプ 心がつなぐストーリー とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
命を懸けた闘い。
一人ひとりの勇気が集まって世の中は動いていく。
どれだけの想いを込めた告発なのか。
失職どころか命すら危うい行為。家族をも巻き込むかもしれない。
危険な目に合っても、警察は動いてくれない。否、警察すら迫害側に回るかもしれない。
それでもの決意。
最初の一歩を踏み出した女性の勇気。もし彼女がいなかったら何も始まらなかった。
勿論、時代の後押しもある。この本の企画をもっと前に考え付いたとしても、埋もれてしまっただけかもしれない。
今なら、この想いが誰かに届くかもしれないという期待。受け取ってくれる人がいるかもという後押し。それゆえの決意。
乳母に育てられる。
こんな乳母ばかりならいいけど。(『英国王のスピーチ』での、バーティの乳母との対比)
血の繋がりより自分を愛しいと大切にしてくれる存在がいるから自尊心を保てるのに、その後の周りの大人の影響で人格がねじ曲がる。怖い。
暴力の直接的な表現は無い。
エイビリーンが襲われるんじゃないかと怯えて帰路を急ぐ。そんな演技に、いつかリンチに会うんじゃないかとドキドキハラハラ(この演技すごすぎ!)。
エイビリーンの息子の死にざま、DVと、言葉で語られることに胸をえぐられる。TVから流れるニュースで時代を感じ、他の地で起こっていることを想像する。
この映画の中で描き出されるのは、日常の中に、人々の感覚の中に沁み込んでしまった差別。あまりにも当然のことで、差別している意識もないから変えられない。ある意味、暴力よりもっと怖い。
衛生面でトイレを分けるくせに、食事は?家の掃除は?子どもの面倒は?矛盾だらけなのに、気が付かない。慣習だから。
ヒ―リ―は、私達から見れば見事なヒールに映るけど、あの時代のあの風潮の中で、かなりの優等生・皆から尊敬され羨望されるべくふるまっているだけの女性なのだろう。「正しきことをすべき」「こうしなければならない」という価値観を押しつけ、人々の称賛を得ようとするだけの女性なのだろう。
相手の立場に立って、相手の気持ちは考えられない。
自分の無学にも気が付けない。(大学が4年ということすら知らない)
人生早期に愛を与えられて人は愛を知る。
でも、子は養育者との関わりの中でだけで育つわけではない。学校等で、家族の、社会の価値観に染まり、その中で称賛されるやり方を身につけていく(社会化)。
ヒ―リ―の母はパンチの効いた存在で、ヘルプ目線になっている私にはすかっとしたことをやってくれる人だが、ヒ―リ―にとっては守ってくれる人ではない。ヒ―リ―も寂しい存在。社会の中でマウントとらなきゃ認めてくれる人がいない。
という、世代間連鎖と、周りに合わせる付和雷同を描き出した作品。
そんな地域に風穴を開けるのが、他の地で暮らしたことがあり、大学で学んだスキ―タ―と、他の階層からやってきた無学無教養のシーリア。
自分が生きている場所の常識だけを当然と思ってしまうことの怖さ。
映画を見たり、違う価値観を持っている人と話をしたり、本を読んだりして、自分の常識・価値観を見直すことって大切なんだなあと、改めて思った。
映画としての成功は、魅力的な配役だろう。
エイビリーン演じるデイヴィスさん、この人あってのこの映画。抑えた怒り・やるせなさ、それでもの、自分の職業への矜持、養い子への想い、決意。ヘルプとして働く方々の想い。映画のbaseを体現してくれる。
ミニ―演じるスペンサーさんの魅力的なこと。
この二人が経糸横糸として世界観を語ってくれる。
そしてヒール役のヒ―リ―演じるハワードさんとシャーロット演じるジャネイさんが、時に辛辣に、時にコミカルに、きっちり憎たらしい役を演じきってくれる。だから、感情移入しやすくなる。
ミニ―を師として家事の腕を上げていくシーリアとその夫もすてき。チャスティンさんが見るたびに違う役どころでスゴイ。
ラストがけっしてハッピーエンドでないところもいい。
それでも顔をあげて歩いていく、そんな姿勢を真似したいと思った。
*いつもの私なら、ミニ―がヒ―リ―にやったことで映画の評は☆1つにするところなんですが、それがあってもなおの感動作です。
*本当は守秘義務の範囲内で、暴露本だしちゃうようなお手伝いさんは雇っていられないんだけど。それでも、お手伝いさんの地位向上に役立つ意義はある。