「傑作量産機・ピクサー」モンスターズ・ユニバーシティ 13番目の猿さんの映画レビュー(感想・評価)
傑作量産機・ピクサー
ピクサー作品の魅力には端的に戯画化され、しかしなおも損なわれない物語の深さが挙げられる。『カールじいさんの空飛ぶ家』での序盤数分での人生の描写はその最たるもので、あの数分間はアニメ史に残る名描シーンだと言ってもいいだろう。今作でもその技は色あせず、OPの主人公マイク・ワゾースキーのボッチっぷり、「できない子」でありながらも健気で前向きな少年の描写は数分で観客を惹きつけ、マイクのことを我々に好きにさせずにはいられない卓越ぶりだった。そんな描写力と同様に感銘を受けざるを得ないのが、以前『トイ・ストーリー3』でも言及した声優起用の卓越さだろう。「難しいのは夢を持ち続けること」や「夢の叶え方は一つじゃない」という映画の予告、さらに前作でマイクが携わっていた仕事内容から、察しのいい人間には大体の結末が予想されるかもしれない。だが、例え大方の予想がついていたとしても、そこに内容の深さがあれば人の琴線に触れることができるのであり、そしてこの声優起用の卓越さがこの作品を大人もひっそりと涙できる傑作にしてくれているのだ。
数年前、マイク役を務めた爆笑問題の田中裕二が、業界から干され仕事が激減した時期に、相方・太田光の才能に自信があったので芸人を続けてられたのだと雑誌「R25」のインタビューで応えていたことがあった。子供の頃のプロ野球選手、6大学を卒業してアナウンサーと、自分を中心にした夢は潰えたが、相方と二人で歩み続け、そしてスポットライトを掴むことに成功した彼のそんな人生が、現実を突きつけられ、そこから再起するマイクというキャラクターにシンクロし、この物語に深みを与えているのである。
人生の深さ難しさ、それを脚本、映像、演出、声優と、あらゆる方向からテコ入れして表現することで、大人と子供の両方の鑑賞に耐えうる2時間弱の作品として仕上げたピクサーの技には相変わらず唸らずにはいられない。