劇場公開日 2012年5月26日

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「黄金時代への思い」ミッドナイト・イン・パリ キューブさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0黄金時代への思い

2012年7月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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楽しい

幸せ

 ここ最近のウディ・アレンの作品はどこかパンチに欠ける。いやパンチがある作品もあったが、全体的に陰鬱で彼の持ち味が全然生かせていなかった。だがこれは違う。紛れもない「ウディ・アレンの映画」だ。
 社交性のない脚本家を演じるのはオーウェン・ウィルソン。このキャラクターは明らかにアレン自身がモデルであろう。だからウディ・アレンと同じタイプの役者が演じると暗くなりがちなところを、ウィルソンが演じることで独特の能天気な明るさを吹き込んでいる。しかも普段彼が演じる「ただのマヌケ」ではなく、ギルは「考える夢想家」と言ったところだろう。一つ一つの台詞にもウィットを感じさせる。
 もう一つ。登場する’20年代の芸術家たちがたまらない。コール・ポーターにフィッツジェラルド、ヘミングウェイにピカソ。今の私たちが彼らの人物像を捉えるには本を読むなどするしかない。だからそれらの人物が一挙に映像化されるとすごくシュールで面白い。みな想像したとおりの人物なのだが、される会話が「いかにも」って感じだから余計に楽しい。なかでも一番はギルがダリと仲間のシュルレアリストからアドバイスを受けるシーン。ダリのぶっ飛んでる様子が写真で見たとおりで見た目(エイドリアン・ブロディが演じている)もそっくりなのだ。これだけ魅力的な人物が多いと、’20年代に戻りたくなるのも分かる。
 そんな中ギルはピカソの愛人アドリアナと恋に落ちる。一緒になりたくても、時代が違うからなかなか上手くいかない。このロマンティックさとシュールさの見事な融合がまさに「ウディ・アレンの映画」たる所以である。だがこのギルの恋愛模様がこの映画の欠点でもある。まず婚約者のイネズ。アレンが作り出したキャラクターにしては奥深さもクソもないただのアホ女だ。なぜギルが彼女とさっさと別れないのか、彼女との関係が丁寧に描かれていないからあまりよく理解できない。ヘミングウェイが言うことがもっともだと思った。アドリアナ自体のキャラクター性は申し分ない。ギルと同じく、自分の生まれた時代に満足できなくて昔に思いを馳せる。だからその点ではギルと一致していても、その時代が違うものだから難しい。その辺の葛藤をもう少し上手く描ければ、最後の感動も大きかったかもしれない。
 でも全体の雰囲気や登場人物、そしてパリの美しい風景を持ってすればこの映画は十分素晴らしいものになり得る。「自分にとっての黄金時代に思いを馳せる」私みたいな学生にとってこれほどまでに共感できるテーマはない。そして一度映画の中に入り込んだら、絶対にスクリーンから目が離せない。見終わったらとりあえず美術館に行きたくなることは間違いないだろう。
(2012年7月1日鑑賞)

キューブ
気狂フェリーニさんのコメント
2012年7月5日

アレンの作品は、昔ほどの輝きがないと思って最近は遠うざかっていましたが久しぶりにニンマリ!いつの時代も昔がよく見えるのか?未来ヘ行くほど堕落してしまうのか?

気狂フェリーニ