「【77.6】麒麟の翼 劇場版・新参者 映画レビュー」麒麟の翼 劇場版・新参者 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)
【77.6】麒麟の翼 劇場版・新参者 映画レビュー
作品の完成度
東野圭吾による「加賀恭一郎シリーズ」の劇場版第二作目であり、連続ドラマ『新参者』の延長線上にある作品
単なるミステリーとしてだけでなく、事件の背景にある人々の「絆」や「親子の情愛」に焦点を当てた人間ドラマとしての完成度が高い
殺人を巡る複雑な真相を、複数の登場人物の視点と過去の出来事を交錯させながら、加賀恭一郎の丁寧な捜査によって紐解いていく構成
その過程で、被害者、容疑者、その家族や関係者それぞれの後悔や苦悩が浮き彫りになり、観客の感情を揺さぶる
謎解きの巧妙さと、その後に訪れる感動的な真実の提示という、東野圭吾原作の強みを最大限に活かし、劇場版としてのスケール感と感動の深さを両立
ただし、多くの要素を詰め込んだため、物語後半の複数の事件の繋がりや偶然性がやや強引に感じられる部分もあり、ミステリーとしての論理的な厳密さよりも、情感を重視した作りとの見方もある
監督・演出・編集
監督はテレビドラマ版に続き土井裕泰
ドラマシリーズから培われた、ウェットな情感と東京・日本橋界隈の情緒ある風景を融合させる演出は本作でも健在
日本橋の「麒麟の翼」像を象徴的に用い、物語のテーマである「人が信じる心」「真実への希求」を視覚的に表現
重厚な事件の展開と、過去の回想シーンを巧みに織り交ぜることで、テンポ良く、かつ深みのある物語を構築
特にクライマックスの、加賀による一連の真相解明と、中井貴一演じる青柳武明の行動の裏側が明かされるシーンの演出は、強いカタルシスと感動を生む
脚本・ストーリー
脚本は櫻井武晴
東野圭吾の原作が持つ、緻密な謎解きとヒューマニズムの融合を見事に映像脚本化
表層的な事件の捜査から、被害者の不可解な行動の真意、そしてその裏に隠された父と子の絆の物語へと収斂していく構成は秀逸
「死んでいく者のメッセージを受け取るのが、生きていく者の義務」という加賀の信念に基づき、単なる犯人探しに終わらない、登場人物の心の救済を描く
ただし、物語の核となる八島冬樹を巡る事件と、青柳家を巡る事件の結びつきが、ややドラマティックに過ぎるという意見も一部に見られる
現代社会における親子の断絶や、いじめ、ハラスメントといった社会的なテーマも織り交ぜ、単なるフィクションに留まらない問題提起を含んでいる
映像・美術衣装
日本橋や人形町といった下町情緒を残す街並みを舞台に、都市の光と影を美しく捉えた映像
被害者が力尽きた場所である日本橋の麒麟像は、事件の象徴として神々しくも悲劇的なムードを醸し出している
美術は、日本の伝統的な街並みの雰囲気を保ちつつ、事件現場や登場人物の居室のディテールにこだわり、物語のリアリティを高めている
衣装は、主要人物である刑事や被害者家族の心情や立場を反映した、抑制の効いたリアルなトーンが中心
音楽
音楽は菅野祐悟
ドラマ版から引き続き、事件の緊張感を高めつつも、人間ドラマの感動を深める情緒的なスコアを提供
主題歌はJUJUの「sign」
切ないメロディと歌詞が、物語のテーマである「大切な人を失った悲しみと、それでも立ち向かう強さ」を強く印象付け、エンディングで観客の感動を増幅させる効果を果たしている
キャスティング・役者の演技
主演
阿部寛(加賀恭一郎 役)
元々長身で彫りの深い顔立ちという原作の加賀のイメージに合致しつつ、冷静沈着な推理力と、事件の裏にある人間の悲しみに寄り添う熱い情熱を併せ持つ複雑なキャラクターを見事に体現
時に厳しく、時に優しく真実を追求する刑事像は、シリーズを通して揺るぎない魅力を放ち、観客の信頼を得る
特に、真実にたどり着いた際の、静かながらも強い説得力を持つ語り口は圧巻で、このキャラクターの深みを確立
助演
新垣結衣(中原香織 役)
殺人事件の容疑者となってしまった恋人の無実を信じ、真実を求め続けるヒロイン役
一見華奢に見えるが、内に秘めた芯の強さと、恋人への深い愛情を、涙を交えながらも感情を抑えた繊細な演技で表現
疑念と絶望の中で葛藤しつつも、加賀の捜査に希望を見出す複雑な心理を見せ、観客の感情移入を誘う
溝端淳平(松宮脩平 役)
加賀の従弟であり、若手刑事として捜査に加わる
加賀のやり方や人間性に影響を受けながら、刑事として成長していく姿を等身大で演じ、シリーズにおける重要なバディとしての役割を担う
熱意はあるが、未熟さも持つ若手刑事の葛藤と、加賀への尊敬の念を、誠実な演技で表現
松坂桃李(青柳悠人 役)
被害者の息子であり、事件の鍵を握る青年
複雑な家庭環境と、自身の過去の過ちにより、深い心の闇と後悔を抱える難役
父への反発と、事件の真相を知るにつれて明らかになる父の愛に対する苦悩を、内向的で繊細な演技で表現
事件の真実に大きく関わる彼の心の機微が、物語の感動を深める
この作品と、他の出演作での演技が評価され、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞
中井貴一(青柳武明 役)
事件の被害者であり、物語の真のキーパーソン
刺殺された後、不可解な行動を取りながら日本橋の麒麟像の下で絶命
寡黙で不器用ながら、息子への深い愛情と、ある使命を果たすための決意を、台詞が少ない中で、その表情と佇まいで雄弁に物語る
彼の最期の行動の真意が明かされる終盤は、観客の涙を誘い、作品のヒューマンドラマとしての格を一段と高めた
受賞歴
第36回日本アカデミー賞において、松坂桃李が新人俳優賞を受賞
作品
監督 土井裕泰
108.5×0.715 77.6
編集
主演 阿部寛B8×3
助演 新垣結衣 B8
脚本・ストーリー 原作
東野圭吾
脚本
櫻井武晴 B+7.5×7
撮影・映像 山本英夫 B8
美術・衣装 金勝浩一 B8
音楽 音楽
菅野祐悟
主題歌
JUJU B8